15日、バンコク中心部の歓楽街は、普段なら開店準備が始まる午後5時ごろになっても静まり返っていた=乗京真知撮影
タイ国王の死去にともなう「娯楽自粛」の呼びかけで、主要産業の観光に影響が出始めている。人気の王宮は見学を制限し、夜の街は閉店が目立つ。格闘技や音楽イベントのほか、伝統行事の中止も相次ぐ。旅行業者は「自粛ムード」の広がりを注視している。
国王死去の直後、プラユット暫定首相はテレビ演説で国民に娯楽や祝い事を控えるよう要請した。バンコクの百貨店や大通りの電光掲示板には「天国へお見送りします」と追悼する言葉が繰り返し流れ、ホテルや病院などは外壁に黒い幕を垂らす。
タイには海外から昨年約3千万人が訪れ、観光は国内総生産(GDP)の約1割を占めるが、王宮やエメラルド寺院(ワットプラケオ)はひとまず20日までの休館を発表。日本語ガイドの女性(44)は「名所が見学しにくくなり、旅行者が減り始めた」と話す。
2年前の軍事クーデターの夜も明かりを消さなかった市中心部の歓楽街。13日夜から風俗関連の店舗に「閉店」の紙が貼られ、大半がシャッターを下ろしている。女性26人を雇うバーの従業員(32)は「うちの娘たちは実家で小休止。軍の見回りがあるから、ライバル店の様子を見ながら数日は休む」と語った。
バンコク北部の国技ムエタイの競技場「ルンピニー・ボクシング・スタジアム」は11月中旬まで試合を見送り、音楽コンサートも相次いで中止になった。若者が集まるタイ南部のリゾート・パンガン島では、市が17日の大規模パーティーを開かないよう通達した。
伝統行事も例外でない。バンコクの繁華街サイアム・スクエア近くの王室寺院は、16日の祝祭「オークパンサー」の古典舞踊を取りやめる。タイ北部チェンマイ市は、数万の灯籠(とうろう)を夜空に放つ恒例の「イーペン祭り」を中止する。
自粛の流れは日本にも響く。タイから日本への観光客はこの5年で4倍以上の年約74万人に伸びたが、大手旅行会社の予約担当者は「多くのタイ人が旅を控えて、日本への予約は半減した」と語った。(バンコク=乗京真知、五十嵐誠)