菅治子さんの自宅。解体の見通しはまだ立たない=10日、熊本県益城町、大森浩志郎撮影
熊本地震の被災地で、公費解体を申し込んだが、まだ済んでいない建物が、発生から半年経った今も約1万6千棟に上る。被災者からは生活再建の見通しが立たず、倒壊すれば近所に迷惑がかかるという心配の声が出ているが、被害が集中した地域では行政や業者が対応しきれていないのが実情だ。
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2度の震度7に見舞われ、98%の建物が被害を受けた熊本県益城(ましき)町。役場の西側にあり、古い民家やアパートが立つ住宅密集地に、全壊した菅(かん)治子(はるこ)さん(75)の木造2階建ての自宅がある。余震で傾いていき、隣家に倒れかかる恐れもある。
菅さんは6月に解体を町に申請した。跡地に自宅を建て直し、今入っている近くの仮設住宅から戻るつもりだ。町は二次被害の危険がある家屋を優先的に解体しているというが、まだ解体は始まっていない。「早く、我が家で安心して寝たい」と話す。
益城町安永の緒方徳俊さん(55)も自宅が全壊し、7月に妻と仮設住宅に入った。台風が近づくと、近所の人から「(傾いた家は)大丈夫か」と心配する声が聞こえてきた。だが、町による解体は全体的に進んでいるように見えず、自ら解体業者と契約した。
9月中旬に始まり、家の片付けが1週間、解体は3日で終わった。費用は約70万円。町に精算を申請するつもりだが、標準単価をもとに一定額が得られる仕組みで、全額戻るかどうかはわからない。元の家のローンも残っており、自宅を再建すれば二重ローンになるうえ、さらに負担がのしかかる可能性があるが「行政を待っていては自立できない。家が倒れて周りに迷惑をかけてもいけない」と話す。
益城町は取材に対し、申請を受けた3396棟のうち186棟を町が解体し、所有者が解体し事後申請したのは521棟と答えた。(大森浩志郎、平井良和)