写真⑤ヘロイン中毒で亡くなった弟の遺影が飾られた部屋。デイナ(左)は弟と親友のように育った=オハイオ州、金成隆一撮影
■「トランプ王国」を行く:5 @オハイオ州ジラード
日々の暮らしのため、子どもを育てるため、複数の仕事を掛け持ちしている人は日本にも多い。アメリカも同じだ。
【特集】米大統領選挙2016
【特集】「トランプ王国」を行く
米大統領選の激戦区オハイオ州。同州東部のトランブル郡で、トランプ支持者の代表を務めるデイナ・カズマークさん(38)もそんな一人だ。彼女の選挙戦への没頭ぶりは地元でも有名。トランプ支持者の間で尊敬を集めている。
4~19歳の子4人を母親の手も借りて育てている。昼間は喫茶店で、夜はバーで働く。
最初にデイナに会ったのは3月25日の金曜日。「どうしても面会したい」と電話で取材を申し込むと、「夜はバーで働いているから飲みに来たら」と前向きな返事が来た。
バーは、ジラード(Girard)という街にあった。
デイナは店内を忙しそうに駆け回っていた。20人ほどの客の注文をとり、飲み物や食事を運び、精算もして雑談にも応じている。店内は全員白人。入店すると、すぐに気付いたデイナが笑顔であいさつしてくれた=写真①。気さくで初対面なのにそのように感じさせない。
あまりに忙しそうなので、この日の取材はあきらめた。食事を済ませて帰ろうとすると、デイナが声を掛けてくれた。「日曜も街にいる? イースター(感謝祭)だから私の実家にハムを食べに来ない?」
デイナの実家は郊外の平屋だった。米国では平均的なサイズ。親族だけでなく近所の人も集まったので、部屋はいっぱい。ハムとハンバーガー、ポテトサラダをごちそうになった。デイナは4人の子どもを連れてきていた=写真②。長女には3歳の娘がいるという。デイナにとってのお孫さんだ。
たばこを吸いながら話そうというので、外に出て座った。この話からは、トランプ支持者の境遇、思いのほか、政治に興味のなかった人が選挙戦に没頭するまでの経緯もわかる。大げさかもしれないが「草の根の民主主義」の姿も見えてくるかもしれない。