「学生村」で食堂を再開した橋本としえさん=熊本県南阿蘇村河陽
東海大阿蘇キャンパスの「学生村」と呼ばれる熊本県南阿蘇村の黒川地区で食堂を営んでいた橋本としえさん(61)が、熊本地震から半年近くを経て営業を再開した。倒壊した自宅の下敷きになり、長い治療とリハビリを経て戻った村に学生の姿はないが、「元のようなにぎわいがもどってほしい」と料理を作って静かに待っている。
「定食三つ」。開店の正午になると、待っていた復旧工事の作業員がなだれこんできて、七つしかない椅子がすぐいっぱいになる。「今週で現場を離れる」「ご苦労さんでしたね」。そんなやりとりを交わすカウンターの向こうに、地震前は学生たちがいた。
橋本さんは、夫の幹雄さん(65)の実家で学生下宿のおかみとして食事の世話や相談相手をしていた。10年ほど前に下宿をたたみ、アパート経営に切り替えてからも、車がなく料理も作れない新入生らを自宅に招いて食べさせ、体調が悪いと言えば隣町の病院まで連れて行った。「黒川の人たちと学生は家族のようだった。学園祭にも参加し、夏祭りも一緒にやった」
食堂「おふくろ亭」をオープンしたのは昨年末。地元特産の赤牛の牛丼や、家庭の味のもつ煮込みなどを看板料理に、学生らでにぎわっていた。
本震が村を襲った4月16日未明、自宅1階で大きな揺れを感じ、立ちあがったとき、床が割れたような感触があり、体が床下に沈んでいった。潰れた建物のがれきが全身にのしかかり、足が重なったまま動けなくなった。足の痛みに意識がもうろうとする中、若い男性が「ずっとそばにいるからね。頑張ってね」と横で声をかけ続けてくれた。朝まで耐え、助け出された。
入院は3カ月余りに及んだ。股関節脱臼などの大けがで治療やリハビリが続く中、見舞いに来てくれた学生もいた。7月下旬に退院し、水道の復旧を待って9月下旬、営業を再開した。立ちっぱなしの仕事は本調子でない体にこたえるため、当面は昼のみの営業だ。
地区ではほとんどの家が全半壊…