「女性の家HELP」は今年で創立30周年。矯風会主催の記念イベントはなく、女性ユニオンが10月にパーティーを開いた=東京都豊島区、贄川俊撮影
配偶者や恋人からの暴力「ドメスティックバイオレンス(DV)」などで苦しむ女性を緊急に一時保護する民間シェルターの草分け的存在、「女性の家HELP」(東京)で労働争議が起きている。事業の責任者の雇い止めを機に労働組合が誕生。スタッフも減り、女性の保護に影響が出かねない事態となっている。
HELPを運営するのは、公益財団法人「日本キリスト教婦人矯風会」。一夫一婦制の確立や公娼(こうしょう)制度の廃止をめざして1886年に設立され、戦後は売春防止法やDV防止法の制定などに力を注いできた。
HELPは、矯風会の創立百周年にあたる1986年、人身取引の被害に遭った外国人女性の保護を主な目的に開所。現在は性暴力やDVの被害者などを幅広く受け入れている。
矯風会の理事会は昨年10月、矯風会が運営する別のシェルター「ステップハウス」とHELPを統合する計画と、HELPのディレクター(責任者)の2016年3月末での雇い止めをスタッフに伝えた。
12年に着任したディレクターは、一部スタッフの賃金を時給制から月給制に改める改革などでスタッフの信頼を得ており、理事会の方針にスタッフが反発。理事会は説明会を開いたが納得せず、今年2月に労働組合「女性ユニオン東京HELP分会」を結成した。
ステップハウスは単身女性の自立、就職を支援する中長期のシェルター。理事会はHELPと統合する理由について、①HELPで一時保護した女性をステップハウスにつなぐ「切れ目のない包括支援」を行う②統合で経費削減効果も見込める――などと説明。ステップハウスのディレクターがHELPのディレクターを兼務する方針も示した。
これに対し、組合は①二つのシェルターは機能もスタッフに必要な能力も異なる②経費削減の手段はほかにもある③新しいディレクターはまもなくHELPに来なくなった――などと反論。理事会が組合との団体交渉に応じないとして10月、東京地方労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた。
HELPには日勤、宿直、調理の三分野のスタッフがおり、保護が必要な女性の受け入れは日勤のスタッフが担う。スタッフの一人によると今年4月以降、前ディレクター以外にも退職者が出て補充が進まず、2人で勤務している日もある。関係機関との調整や電話相談などもあるため2人では手が回らず、過労による腰痛で休む人も。外国人や子ども連れなど複雑な事例に対応するのが難しくなっているという。
理事会は「(シェルターの)統合は10年前から検討してきた。HELPの業務を経験した理事らがカバーしていて、機能が低下しているとは考えていない。不当な団交拒否もしていない」としている。
女性ユニオンの谷恵子執行委員…