首脳会談の冒頭に握手するロシアのプーチン大統領(右)と安倍晋三首相=11月19日午後5時29分、ペルー・リマ、飯塚晋一撮影
ロシアのプーチン政権の高官が15日の大統領訪日を前に、北方領土問題について「私たちが一歩を踏み出せば二国間関係が進むというのは順番が逆だ。信頼関係を深めることで問題解決の展望が開ける」と指摘。さらに「今は日本の対ロ制裁が両国の関係発展を損ねている」と述べて、今回の首脳会談での打開は困難だという見方を示した。
ロシアの主張は冷戦時代の論理 領土交渉は前途多難
北方領土特集
高官はモスクワで、ロシア外務省幹部らと共に、匿名を条件に日本の報道機関の取材に応じた。
高官は「すぐに解決するかのような期待を持たせることは有害だ。事態を悪化させ、安倍(晋三)首相の素晴らしい8項目の経済協力提案をだいなしにする。プーチン大統領がこの問題を踏み込んで検討することもできなくなる」と述べ、首脳会談では経済協力の実現を優先させる姿勢を鮮明にした。
ロシアによるウクライナのクリミア半島併合を機に日本が科している制裁については、プーチン氏は首脳会談で持ち出さないという見通しを明らかにした。その一方で「もしも1956年当時、日本がソ連に対する制裁に参加していたとしたら、日ソ共同宣言に署名できただろうか」とも述べた。平和条約締結のためには、日本が対ロ制裁を撤廃する必要があるという考えを示唆する発言だ。
また、同席したロシア外務省幹部は、今回の首脳会談では平和条約締結に向けた両国の決意や解決の方向性を盛り込んだ共同声明は採択されないという見通しを示した。
この幹部は「2013年4月の安倍首相訪ロの際に共同声明が採択されたが、その後日本が制裁を導入した。前回の声明が履行されていないのに新しいものを採択するというのは論理的ではない」と述べ、新しい共同声明は不要だという考えを強調した。
平和条約交渉については「日本が第2次大戦の結果を無条件かつ全面的に認めること」が前提条件だという考えを改めて主張。さらに、日ソ共同宣言について「平和条約を締結後、歯舞、色丹の日本への引き渡しを検討することが可能になる」という解釈を示した。これは、平和条約でいったん北方四島をロシア領と確定した上で、2島の日本への引き渡しの条件を巡る交渉を始めるべきだという立場だ。
北方四島で日ロ両国が合弁事業などの協力を進める「共同経済活動」については、安倍首相が5月にロシア南部ソチを訪問した際に「実現の可能性を検討する用意がある」とプーチン氏に提案したと説明。今回の首脳会談を受けて、両首脳から両国の外務省に対して実現に向けた検討を進めるよう指示があるだろうとの見通しを明らかにした。(モスクワ=駒木明義)
■プーチン政権高官らの発言骨子
・安倍首相の8項目提案を高く評価
・平和条約を締結すれば日ロ関係を改善できるという主張は順番が逆。まず関係改善すべきだ
・大統領は日本の対ロ制裁を首脳会談で持ち出さないが、制裁は両国関係の発展を阻害している。
・すぐにでも平和条約問題を解決できるかのような期待を広めることは両国関係に有害
・平和条約問題についての新しい共同宣言の発表は今回の首脳会談で予定されていない
・日本が第2次大戦の結果を無条件かつ全面的に認めて、初めて真剣な平和条約交渉が可能になる
・2島引き渡しが盛り込まれた1956年の日ソ共同宣言をそのまま履行することを今のロシア世論が受け入れると考えるのは正しくない
・首脳会談後に両首脳は4島での共同経済活動実現に向けた協議を行うよう両国外務省に指示するだろう