相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で46人が殺傷された事件で、神奈川県警は19日、入所者19人に対する殺人容疑で送検された元職員の植松聖(さとし)容疑者(26)=鑑定留置中=を、入所者24人に重軽傷を負わせたとする殺人未遂の疑いで追送検し、発表した。家族の同意が得られたとして、負傷者2人の名前を初めて公表した。
特集:相模原の殺傷事件
県警によると、植松容疑者は7月26日午前2時半ごろ、園内で23~58歳の男性21人、女性3人の計24人を刃物で刺し、殺害しようとした疑いがある。首や胸を刺され、8人が重傷、16人が軽傷を負った。植松容疑者は「殺すつもりでやった」と容疑を認めているという。
県警はこれまで「被害者家族が強く匿名を希望している」「知的障害者施設での事件で、プライバシー保護の必要性が極めて高い」として死亡者も負傷者も実名を公表してこなかった。追送検にあたり、負傷者の家族に意向を再度確認したところ、諸橋孝治さん(43)と尾野一矢さん(43)の家族から「実名を公表しても差し支えない」との了解が得られたという。
朝日新聞も加盟する県警の記者クラブは、事件直後から県警に実名での発表を求め、報道機関の責任で実名で報じるか、匿名とするか判断するとの申し入れをしてきた。
事件では、ほかに職員3人がけがを負い、県警はこの3人を含む職員5人に対する逮捕監禁容疑などでも来年1月に追送検する方針。横浜地検は精神鑑定の結果を待って、起訴するかどうか判断する。(飯塚直人)
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「名前がちゃんとあるんだから、出した方があの子のためになると思った」。今回、実名での発表を選んだ諸橋孝治さん(43)の母親(76)が初めて取材に応じた。
神奈川県警から「実名を出してもいいでしょうか」と電話があったのは12月に入ってから。即答できず、家族で話し合いをもった。「無理に出さなくてもいいんじゃないか」との意見も出たが、「孝治が悪いことをしたわけじゃないんだから、隠す必要はない」と名前の公表を決めた。
事件から1週間ほどは、孝治さんも動揺しているように見えた。夜中に「ああー!」と大声を出したり、布団をそっとかけるとビクッと目を覚ましたり。「混乱していて、名前の公表について考える余裕はなかった」と当時を振り返った。
ただ、負傷した入所者24人のうち、実名を明らかにしたのは2人だけ。「公表が正しいのか、正しくないのかなんて、わからない。私が後悔するかもしれない」と母親は語った。
事件でけがを負った野口貴子さん(45)の母親、輝子さん(76)は、「障害者だからといって恥ずかしい娘だと思っていないし、世間に対する引け目もない」と、実名で取材を受けてきた。しかし、県警の発表では、他の負傷者の多くが名前を明らかにしないことから、匿名でよいと家族で話し合ったという。「入所者の家族の中には周囲からの偏見に苦しんでいる人もいて、声を上げにくいのでは」と話した。(前田朱莉亜、照屋健)