一時保護所内の教室にある黒板。課題ができると花まるがつく
■第2章「子どもたち」(2)
午後3時すぎ、管轄するエリア内の市から児童相談所(児相)に連絡が入った。この日の午前、2年生の男の子の顔にあざがあるのを見つけたと、小学校の校長から通報があったためだ。
男の子は「同居の男性にたたかれた」と先生に話したという。「週に1~3回はグーでたたかれる」とも。
連載「児相の現場から」
【キーワード】一時保護所
【キーワード】児童虐待死
児相内で緊急の会議が開かれ、一時保護の方針が決まった。あざができるほど顔をたたかれ、日常的な暴力の可能性もあることが判断の基準となった。ワーカー(児童福祉司)らが一斉に動き出した。
まず男の子の弟が通う保育園に連絡し、弟への虐待がないかどうかを確認した。小学校には男の子を帰宅させないよう電話した。
午後4時10分、ワーカーのハルミ(仮名)ら2人が車で学校に向かった。学校からは「校長がいる午後4時半までに来てほしい」と言われた。時間がない。
20代のハルミは虐待対応チームに入って1年目。「本人がいやって言うかもしれない。市は午前中に学校から連絡を受けているのだから、もう少し早く連絡してくれたら……」と思った。放課後よりも、授業中に子どもを呼び出して保護した方が、ほかの子どもたちの目に触れずに済み、校長や子どもから話を聞く時間も十分にとれる。でも、ぼやいても仕方ない。焦る気持ちを集中させた。
午後4時28分、学校着。担任に連れられて、ランドセルを背負った男の子が会議室に入ってきた。ほおが赤く腫れているのがハルミにもわかった。
「家族と話したいと思います。君を守るためにお泊まりしてもらうことになるけど、いいかな?」
話しかけるハルミに男の子は素直にうなずき、児相の車に乗り込んだ。最初は緊張気味だったが、すぐに打ち解けたという。
子どもの安全を守るための一時保護。子ども自身が同意して保護できたとしても、それは始まりでしかない。保護された子どもは病院で診察を受け、一時保護所などで親と離れて寝泊まりするようになる。
男の子を乗せた車がまず向かっ…