米西海岸シリコンバレー郊外にある人気のない広大な敷地に、白いペンキがところどころはげ落ちた建物や弾薬庫跡が立ち並ぶ。東京都港区とほぼ同じ広さの敷地に残る「街」で、大きなカメラや大量のセンサーを積んだ車が走り回っていた。
交差点に立つと、時速40キロほどで近づいてきたホンダの黒いセダンが減速し、停止線の前でぴたりと止まった。赤信号を認識したのだ。屋根の上に三つのカメラ。運転席に人の姿はあるが、機器のデータ確認に忙しく、ハンドルは気に掛けていない。すぐに車はひとりでに発進。ハンドルが勝手に回り、右折して走り去っていった。
「ゴーメンタム・ステーション」と呼ばれる米海軍基地跡。ここでいま、最先端の自動運転技術を磨く実験が繰り返されている。管理する地元自治体は立ち入りを厳しく制限しているが、11月中旬、一部メディアに許可が出た。
ホンダは昨年、ここで実験を始めた。実験車を何度も走らせ、運転者に代わる人工知能(AI)の性能を磨く。例えば、交差点での右折時に左から別の車が来たら、7秒の余裕があれば自らの車を先に右折させ、ないと判断すれば譲る。並走する自転車をセンサーで捉え、巻き込まないように曲がる。そんな微妙な判断をAIに学ばせている。現地責任者の藤村希久雄氏は「何百もある技術で採用できるのは一つか二つ。ここでは、実際に試し、失敗を重ねながら確かめられる」。
ホンダのような自動車大手だけではない。中国のネット検索最大手の百度(バイドゥ)、米配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズ傘下のオットー、フランスのベンチャー企業……。業界の枠を超えた開発競争が、この基地跡で繰り広げられている。