ハノイの街角で笑顔を振りまく「花売りハインさん」。常連や通りすがりの人が立ち寄って花を求めていく=ハノイ、鈴木暁子撮影
午前5時前、「ハイン・ホア」(花売りハインさん)はハノイの街角に着くと、切りそろえた花を自転車の上のかごに並べた。
世界の「市場」最前線
空が明るくなるころ、通勤途中の人たちがバイクにまたがって花を買いにくる。黄色い菊は10本5万ドン(約260円)、バラは3万ドン(約155円)。「こっちの花にしてよ」「もっと安く」と口うるさい客にも、くるくると新聞紙に包んで笑顔で渡す。
ファム・ティ・ハインさん(50)は花売りを始めて22年。「この人の花は長持ちする」とお得意さんが言うとおり、自転車のかごに載せた花はみずみずしく、車で通る人も窓から顔を出して買っていく。
ハノイの街を歩くと、ノンと呼ばれる笠をかぶった花売りの女性にあちこちで出会う。花だけではない。陶器で有名なバッチャン村の茶わんやつぼを約200キロも自転車に下げて歩く人。果物の量り売り。爪切りや靴の中敷きを箱いっぱいに入れて売り歩く人も。
お得意さんには「ツケ」で売り、家に配達もする。店舗をもたない彼女たちはまるで歩く市場。いや、欲しいものがさっと手に入る「コンビニ」のような存在かもしれない。
売り子たちの朝は早い。まだ夜も明けぬ午前3時すぎ、ハインさんは、花売りの女性でごった返す西湖地区の花市場にいた。産地から運ばれたマーガレットやゆりを仕入れて自転車に積むと、オレンジの街灯がともる暗い道路を、30分かけていつもの通りへ急ぐ。
「バイクならいいけど自転車だからふらふらして、転んで花を台無しにしちゃったことが何度もあるよ」。長い日は午後4時ごろまで花を売り、一日のもうけはおよそ20万ドン(約1030円)だ。
ハインさんはハノイから南に約…