アダルトビデオ(AV)への出演を拒否した女性が、プロダクション会社から「契約違反だ」として2460万円の損害賠償を求められた訴訟で、会社代理人を務めた60代の男性弁護士について、日本弁護士連合会は懲戒処分にするべきか審査するよう、弁護士が所属する第二東京弁護士会に求める決定を出した。昨年12月21日付。
弁護士が訴訟を起こしたことで懲戒審査の対象になるのは異例。同弁護士会が今後、審査する。
損害賠償訴訟の判決によると、女性はAV出演を拒否すると会社から「違約金が1千万円かかる」と言われた。契約解除を求めると、会社はこの男性弁護士らを代理人として東京地裁に提訴。地裁は2015年9月、「強要できない仕事なのに、多額の違約金を告げて出演を迫った」として請求を棄却し、確定した。
この経緯を知った東京都内の男性が同年10月、同弁護士会に「会社によるAV出演の強制に手を貸した」と弁護士の懲戒を求めた。同弁護士会は「提訴自体が問題とは言えない」と判断したが、男性の異議申し立てを受けた日弁連は昨年12月、「高額請求の訴訟はAV出演を強制する威圧効果がある」などと指摘。「女性への影響の大きさ、請求内容を考慮すると問題がないとは言えない」とした。
弁護士は取材に、「国民が持つ『裁判を受ける権利』を代理し、裁判所に判断を求めるのが弁護士の仕事。提訴を懲戒審査の対象にした日弁連の判断は不当で、懲戒委員会で正当性を主張していく」と話した。
法曹倫理に詳しい森際康友・明治大学特任教授は「依頼者の正当な利益の実現が弁護士の基本的な職務。だが『弁護士職務基本規程』が不当な目的の訴訟の受任を禁じるなど、一定の制限が設けられており、提訴自体が懲戒対象になることもあり得る」と指摘する。(千葉雄高)