弁護士に対する懲戒請求件数=日弁連のまとめから
朝鮮学校への補助金交付を求める声明などを出した各地の弁護士会に懲戒請求が殺到した問題で、当事者の弁護士の一人が、謝罪文を送ってきた請求者への返信をフェイスブックに公開している。「あなたがすべきことは私への謝罪でなく、差別を楽しむこととの決別だ」とつづった内容はSNS上で拡散した。
書いたのは札幌弁護士会所属の池田賢太弁護士(34)。池田さん自身も960人から請求を受けた。懲戒事由として、日本弁護士連合会(日弁連)が2016年7月に出した朝鮮学校の補助金停止に反対する会長声明に賛同したことが、「確信的犯罪行為」に当たるなどとされていた。
日弁連のまとめでは、昨年1年間の懲戒請求受理件数は例年の数十倍の13万件。ネット上に請求を呼びかけるブログがあり、請求書のひな型も載っている。
請求を受けた弁護士の間で請求者に損害賠償を求める動きが始まると、池田さんに6人の請求者から謝罪文が届いた。
池田さんは返信を書き、5月18日に自身のフェイスブックに内容を公開した。
「社会は一人ひとりが平等という価値観で成立している。あなたの懲戒請求は在日朝鮮人の権利の平等性を認めず、社会の前提を壊している」と指摘。「私の経済的損害や精神的苦痛よりも、この社会の分断を生じさせたことは、極めて重大で、その責任の重大性をしっかりと認識して」と結んだ。目にした人がツイッターで紹介するなどして、SNS上で拡散した。
その後、2人からは再度、池田さんに手紙が届き、「自分の人権意識が薄かったことを反省している」などとつづられていたという。
池田さんは「ブログにあおられて大量の懲戒請求という行動につながったことが恐ろしい。関東大震災で流言が広がり、朝鮮人虐殺が起きた事態とどう違うのかという問題意識があった」と話している。(黄澈)
池田弁護士が請求者に宛てた手紙(抜粋)
私たちの社会は、私たち一人ひとりが、その本質において平等であるという価値観に基づいて成立しています。出自がなんであろうと、障害を負っていようと、職業がなんであろうと、男であろうと女であろうと、その本質において平等でなければなりません。
私が本当に憤っているのは、貴殿のした懲戒請求が、在日朝鮮人あるいはその子どもたちの権利の平等性を認めていないという点にあります。個人はその本質において平等だというこの社会の前提を壊していることに対する無自覚さです。
私は、貴殿が今回の懲戒請求をなさった根底には、差別に対する無自覚性があると思わざるを得ないのです。
そうであれば、貴殿がなすべきことは、私や弁護士会に対する謝罪ではなく、貴殿の心の中にある明確に存在する差別をする心と向き合うことであり、差別を楽しむこととの訣別(けつべつ)です。謝罪すべきは、貴殿の懲戒請求によって在日朝鮮人の子として生まれたがために学ぶ権利を否定された子どもたちにであり、それを自らの責任と追い詰めている彼らの親たちにです。
私は、貴殿がどのような思想を持とうと、表現活動をされようと自由だと思います。しかし、その自由には責任が伴うことを忘れてはなりません。その自由を行使した結果、他人の権利を害することは許されるべきことではありません。そして、私の経済的損害や精神的苦痛よりも、この社会の分断を生じさせたことは、極めて重大で、それに対する大きな責任は負うべきだと考えます。その責任の重大性をしっかりと認識していただきたく存じます。