ワシントン中心部で20日、抗議デモの参加者に催涙スプレーを噴射する警察=AP
華やかなセレモニー会場のすぐ近くで、閃光(せんこう)弾が飛び、ゴミ箱が燃やされた。現地時間の20日、トランプ氏が米大統領に就任した首都ワシントンでは、この国が大きく分断されている現実を示す光景が広がった。
【タイムライン】トランプ大統領、就任式ドキュメント
デモ隊と警官隊の衝突が起きたのは、トランプ大統領の就任式が終わってしばらくした午後2時半過ぎだった。
就任式の会場から北に2キロ余りの交差点近くで、盾を持ち、道路をふさぐように立つ警官隊。20メートルほど離れて、デモ隊がにらみ合っていた。上空をヘリコプターが旋回している。
「トランプは我々の大統領じゃない」などと叫ぶデモ隊に向けて、警官隊が突然、大きなかけ声と共に歩調を合わせて前進し始めた。後ずさりするデモ隊から石のようなものが投げ込まれた直後、視界の隅をオレンジ色の閃光が横切った。「バーン」という大きな音がビルの間に響き渡る。気づくと10メートルほど先に白煙が立ち上っていた。
警官隊が、大きな音や光を発する閃光弾を撃ち込んだらしい。悲鳴を上げて散り散りに走り出す人たち。「逃げろ」「建物に隠れろ」と怒号が飛び交い、壁の近くに身を伏せた人もいた。逃げ惑う人たちに「後退しないで」と叫んでいる女性の声が聞こえた。
警官隊はさらに数発を撃ち込み、そのたびに耳をつんざく爆発音が響いた。普段はスーツ姿の人たちで埋まるカフェの前の道路のあちこちで炎と白煙が上がり、焦げたような臭いが立ちこめた。唐辛子スプレーや催涙ガスも使われたらしく、せき込んでいる人や、大量の涙を流した跡のある人もいた。
後退したデモ隊と警官隊はそのままにらみ合いを続けたが、1時間ほどすると雨が降り始め、軍の車が群衆を割るように入ってデモ隊は散り散りになった。
前日から抗議活動を繰り広げていたデモ隊は就任式当日に一部が過激化し、カフェや銀行などの店舗でガラスが割られ、ゴミ箱や車両が燃やされた。米メディアによると、200人以上が逮捕された。
デモに参加したのは、反人種・女性差別、地球温暖化防止、反貧困などを主張する多様なグループだ。
ロサンゼルスの中心部でも反トランプの大規模なデモ行進があり、土砂降りのなか、ヒスパニック系や黒人ら数千人が「トランプを国外追放すべきだ」「トランプは私たちの大統領でない」などと叫んだ。
中南米の民族衣装を着た人たちが踊りながら抗議する場面もあった。メキシコ系米国人のアーティスト、アルフレッド・ラミレスさん(48)は「ヒスパニック系の労働者たちがいなかったら米国は成り立たない」と語り、「団結し、人種差別などトランプがやろうとしていることを食い止めたい」と話した。白人女性の人権活動家ジャズ・ハーバーさんは「トランプはファシスト。閣僚もみな金持ちばかり。就任前からすでに失敗している」と語った。(ワシントン=宮地ゆう、ロサンゼルス=平山亜理)