参院予算委で、民進党の蓮舫代表の質問に答える安倍晋三首相=1月30日午前、岩下毅撮影
安倍晋三首相「どのような条文をどう変えていくかということについて、私の考えは(国会審議の場で)述べていないはずであります」(1月30日の参院予算委員会)
〈評価〉 誤り
「家族の助け合い」を新たな国民の義務に盛り込んだ自民党憲法草案を元に、憲法観をたずねた民進党の蓮舫代表に対し、「行政府の長としてお答えする立場にない」「逐条的、具体的な案については憲法審査会で議論すべきだというのは私の不動の姿勢だ」と述べ、答弁を避けた際の発言だ。
実際には、2013年2月8日の衆院予算委員会で、日本維新の会の中田宏氏から憲法改正手続きを定めた憲法96条について問われ、「3分の1をちょっと超える国会議員が反対をすれば、指一本触れることができないということはおかしいだろうという常識であります。まずここから変えていくべきではないかというのが私の考え方だ」と答弁。個別の条文の改正について語っていた。
予算委は「予算」と名が付くものの、国政全般について首相の見解をただすことができる場だ。昨年も自民議員の問いに、自民草案を逐条的に説明し、自分たちの考えを述べた。しかも、首相は施政方針演説で改憲論議を衆参両院の議員たちに呼びかけた。誤った事実関係を持ち出してまで、憲法論議に言及したり言及しなかったりする姿勢はフェアと言えない。(南彰)
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安倍晋三首相「兼山(けんざん)のハマグリは、土佐の海に定着しました。そして350年の時を経た今も、高知の人々に大きな恵みをもたらしている」(1月20日の施政方針演説)
〈評価〉 言い過ぎ
兼山は江戸時代の土佐藩家臣、野中兼山。江戸から持ち帰ったハマグリをすべて海に投げ入れ、いぶかる人たちに「これは君たちの子孫に贈るのだ」と語ったとの逸話が残る。首相は演説の結びで紹介し、日本の未来を切り開こうと呼びかけた。
首相の言う「350年の時を経た今」の土佐の海の実情はどうか。
高知県漁業振興課によると、2015年のハマグリの漁獲量は約400キロ、60万円相当だ。県内の主な産地にたずねると、県漁協入野支所(黒潮町)は「組合員が15人ほど従事しているが、メインはあくまでもウニなど他の漁だ」。甲浦支所(東洋町)は「自分で食べるか、人にあげるぐらい」。「大きな恵み」にはほど遠かった。地元紙の高知新聞は首相演説を「高知はハマグリ乏しい」「演説ウソ?」と報じた。
兼山の逸話は、高知選出の中谷元・防衛庁長官(当時)も02年の小泉内閣のメールマガジンで、未来を見据えた政治姿勢のお手本として紹介したが、今も地元の恵みになっているとは書かなかった。演説で逸話を引くのは、政治姿勢をわかりやすく伝える方法として有用だ。ただ、閣議決定を経る施政方針演説にしては、事実確認が不十分だった。(三輪さち子)
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