昨秋の大学祭で民族衣装を着てブルガリアの踊りを披露する大阪教育大民族舞踊部員ら(大阪教育大民族舞踊部提供)
「マイムマイム」や「オクラホマミキサー」など、運動会やキャンプを盛り上げる定番だったフォークダンス。衰退の一途だが、大学生らの間で復権の兆しも見えている。リズムに乗って踊れば友達の輪が広がる。アップテンポな踊りや静かな舞など、ジャンルの多様さも魅力という。
大阪教育大(大阪府柏原市)3年生の田中嵩人(たかひと)さん(23)にとって、まもなく訪れる4月は胃がキリキリと痛む「勝負の季節」として記憶に刻まれている。この数年、存続の危機を乗り越えてきた「民族舞踊部」の部長を務める。この時期こそ、新入生に入部してもらう絶好機だ。
勧誘のノウハウは、先輩たちや田中さんの涙の結晶だ。すぐに部名を名乗ると、民族問題などに関係する団体などと勘違いされてか、怪しまれる。気安い先輩として打ち解けてきたところで「部活、決まった?」「部活で踊ってるねん」と誘うのがコツだ。
民族舞踊、いわゆるフォークダンス。イメージが小学校の運動会で止まっている人も多い。しかし本来は世界各地で長い歴史と伝統があり、のんびりと単調なものばかりではない。華やかな刺繡(ししゅう)の民族衣装を見せながら「ほんまもんのフォークダンス」に興味を持ってもらおうと仕掛ける。
最大の危機は2、3年生がゼロだった5年前の春。新入部員は1人だった。
3年前に入部した田中さんも、勧誘する先輩が「余りに悲壮な顔をしていた」のが入部のきっかけだった。踊ると、世界が開けた。魅力を懸命に伝えた。
現部員は1~3年生で20人を超え、「奇跡」と田中さん。部員たちは「ほどよいユルさと体を動かす気持ちよさが魅力」「様々な国や地域の歴史や風土も学べる。奥深さを知ったら、はまる」と口々に話す。
5年前に1人で入部し、今は中学校講師となった福村沙紀さん(23)は「民族舞踊は踊る技術を競うのではなく、『一緒に踊りましょう』の世界。しゃべったことがなくても一緒に踊れば友達になれる」と話す。
京都大(京都市)の民族舞踊研究会には、バルカン地方や中近東、ポーランド、フランスなど国・地域やジャンル別に10ほどの小サークルがある。
2月初旬の夜、部員やOB約70人が京大キャンパスに集まり、月1回の「フリパ」を楽しんだ。女性を持ち上げるリフトを取り入れたスウェーデンのカップルダンス、体を打ち鳴らすダイナミックなルーマニアの少数民族の踊り、しなやかな腰つきの中国の舞。それぞれが好き好きに踊る。
部長の2年生、高崎泰斗(たいと)さん(22)は中学・高校時代は山岳部。多くの仲間と同じく、入部して初めて民族舞踊に触れた。「国や地域によって全然踊りが違う。自分の肌に合う踊りが楽しめる」と魅力を語る。
踊れば現地への関心も高まる。3年生の川崎優衣さん(21)は昨夏、ハンガリーで踊りを学ぶキャンプに参加し、観光も含めて1カ月滞在。肌に伝わるコントラバスの低音に「本場」を実感した。手作りの衣装、刺繡やクロス、結婚式の髪飾り――。目にも美しい思い出として残ったという。
■減る愛好家、高齢化も悩み
フォークダンスは特定の地域や民族に伝わる踊りで、世界中に様々な種類がある。「大阪の河内音頭もフォークダンスの一つ」と日本フォークダンス連盟(東京)の担当者はいう。
日本では1946年、米国から派遣された民間教育担当官の故ウィンフィールド・ニブロ氏が、長崎の体育教員らに指導したことで広まったとされる。娯楽の乏しい時代にあって、たちまち全国に普及。昨年10月に亡くなった三笠宮崇仁さまも愛好家の一人だった。
だがレジャーが多様化し、15年ほど前まで全国に30万~40万人とみられた愛好家は、現在の推計で約20万人。高齢化も進む。
2015年度の文部科学省の調査によると、ダンスが必修の中学1、2年での種目(複数回答可)は「現代的なリズムのダンス」が69%、「創作ダンス」が41・5%、「フォークダンス」は26%だった。
危機感を抱く日本フォークダンス連盟は15年から、50歳未満の会員や学生の講習会参加費を先着で半額や無料にした。衣装・シューズの販売会社「ナロッドニー」(東京)は、フォークダンスへの関心を高めようと、イラストレーター6人と組み、6カ国の民族衣装をまとった少女キャラクターをあしらったクリアファイルを昨夏に発売。1枚500円で、通販サイト(
https://narodni.official.ec/
)で買える。(荻原千明)