夕方から顔をそろえる常連客の前で串を焼く「元禄」3代目の吉岡凌さん(右端)。その奥は母親の日登美さん=福岡県大牟田市
三池炭鉱の閉山から3月末で20年。かつての「炭都」、福岡県大牟田市に1本10円の焼き鳥を親子3代にわたり30年以上守り続ける店がある。労働者たちが気軽に飲めるようにと初代が貫いた心意気は今、孫の3代目が受け継ぐ。「やっと板についてきたな」。常連客からのお褒めの言葉を励みに七輪で串を焼く。
まだ日が明るい夕方4時。旧三川坑にほど近い同市本町6丁目の「元禄」が店を開ける。
待ちかねたように客が集まり、カウンターに座る。スナズリと鶏皮2種類だけの10円焼き鳥は注文制ではない。ビール(490円)や焼酎・日本酒(310円)、湯豆腐(200円)、手羽先(一つ90円)などを頼んで一杯やっていると、店主が頃合いを見計らって、スナズリと鶏皮をそれぞれ4~5本ずつ小皿に載せて、黙って出す。
はっぴを着て七輪の前で金網に載せた串を焼くのは吉岡凌さん(21)。昨年4月、2代目の父正二さんががんで57歳で亡くなり、後を継いだ。
凌さんは高校卒業後、熊本県の…