慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」。インターホンつきの看板で、直前まで相談を呼びかけている。左の扉を開け、さらに引き戸を開けると、ベッドがある=熊本市の慈恵病院
実親が育てられない子どもを匿名で預かる「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を神戸市の助産院に設置しようとしていた計画が今月、安全面などから当面見送られました。望まない妊娠や生活困窮などの理由で孤立する母と宿った命をどんな態勢で支援するのが適切なのか――。2007年に全国で初めて赤ちゃんポストを設置している熊本市の慈恵病院の取り組みから考えます。
07年5月にポストを置いた慈恵病院(熊本市)は、計画発表から約6カ月かけて国、県や市、児童相談所(児相)、県警などと協議を重ね実現させた。
熊本市の中心部から車で約15分。ひっそりとした病院の裏道の門をくぐり、約4メートルのスロープを歩くと、ポストがある。そのすぐ隣には、相談を促す看板とインターホンも設置されている。
二重扉を開け、子どもが預け入れられると、新生児室などにあるブザーが鳴る。すぐに2人以上の看護師らが駆けつけて子どもを保護。常駐する医師が診察しながら、他のスタッフは警察と児童相談所にも連絡。必要な時は親の相談にも乗る。日に3回ゆりかごを点検。月に1度は訓練も行っている。
熊本市によると、15年度までに預けられた子ども125人のうち、医療行為を必要としたのは29人。この割合は、近年増え続けている。
また、自宅や車中で出産し、預けるケースも目立つ。14、15両年度にポストに預けられた計24人のうち20人にのぼり、その大半が未受診での出産だった。
開設から14年3月までに預けられた101人を分析した市の検証報告書によると、預けた理由は「不明」が25・7%。次いで「生活困窮」21・8%、「未婚」と「世間体(を考慮)・戸籍に入れたくない」が各17・8%だった。障害のある子も約1割にのぼった。14年には、新生児の遺体が遺棄される事件もあった。
ポストについての法律は整備されていない。だが、実親が匿名で赤ちゃんを預けても「保護責任者遺棄罪」に抵触しないのは、病院が安全で、子どもの健康を維持できる施設だと、県や市、警察などが解釈しているからだ。病院との連携は10年を迎える今も密接だ。
慈恵病院の竹部智子・看護部長(49)は「預け入れた子どもの情報がない中での診察は経験豊かな医師、看護師、助産師がチームで向き合っても、経過を見ていく必要もあり難しい」と指摘する。
関西でのポスト設置を目指して…