スマートフォンで市民と写真を撮る曽俊華氏(左)=18日、香港、益満雄一郎撮影
香港のトップを選ぶ26日投開票の行政長官選挙は、中国指導部が「本命」とする前政務長官の林鄭月娥(キャリー・ラム)氏(59)が優勢のまま最終盤を迎えた。だが、市民の支持率ではライバル候補に差をつけられる異例の展開となっている。民意を反映しない選挙に、市民の中国への不信感が強まっている。
香港長官選の「本命」、4割が反対 雨傘運動対応に失望
■「雨傘」の熱気去る
香港大学につくられた「模擬投票」の会場。親中派が多い選挙委員(定員1200人)しか投票できない現状を批判し、民主派の市民団体が市民に呼びかけた。しかし、最終日の19日、投票に訪れる人は少なく、閑散としていた。
3年前の模擬投票は盛り上がった。若者らが普通選挙の実現を求め、路上を占拠したデモ「雨傘運動」の直前におこなわれ、約80万人が参加。これを受け、市民団体は今回、目標を100万人に引き上げた。だが、実際に投票したのは約6万人にとどまった。
集票システムが何者かにサイバー攻撃を受け、投票が一時中止に追い込まれる事態もあった。だが、占拠を提唱した戴耀廷・香港大副教授は、香港社会を覆う「無力感」が根底にあると指摘する。「多くの人が『北京の支持する林鄭氏が当選する』と思っているので、模擬投票なんて意味がないと感じている」
林鄭氏は雨傘運動当時、香港政府の代表として若者と対話したが、中国政府の意向を受け、譲歩しなかった。その後、若者の間では、中国と話し合っても意味がないという空気が拡大。林鄭氏は「北京の代弁者」とみられ、人気が下がった。
一方、中国にべったりではないとして、世論調査でトップを維持する前財政官の曽俊華(ジョン・ツァン)氏(65)。街頭に姿を現すと、「応援しているぞ」と叫ぶ市民に囲まれた。香港大学の3月の世論調査(1017人)によると、曽氏の支持率は53%。立候補時に選挙委員の過半数に迫る580人の推薦者を集めた林鄭氏は32%にとどまり、差は開く傾向にある。中国が推した候補の投票直前の支持率がトップでないのは異例の事態だ。
今回は雨傘運動後、初の長官選だが、運動にかかわった若者たちの視線は冷ややかだ。中心的な存在だった黄之鋒さん(20)は「今の制度のもとでは誰が長官になっても同じ。習近平(シーチンピン)国家主席が香港に来て、世界の注目を集める7月1日の返還20周年に向けて力を集結したい」と語る。
中国離れは若者だけではない。医師や弁護士などの専門職や高学歴層の間で、林鄭氏の長官就任に反対する考えが増えている。香港政治に詳しい倉田徹・立教大准教授によると、習指導部が中国で進める愛国心の強調や人権派に対する締め付けなどへの反発が背景にあるという。倉田氏は「香港社会の中核を担う人たちの離反は非常に重い」と指摘する。