稀勢の里(右)は小手ひねりで松鳳山を下す=伊藤進之介撮影
(19日、大相撲春場所8日目)
どすこいタイムズ
この日はボクシングの元世界王者、長谷川穂積さんがテレビ中継のゲストで会場にいた。その目の前で、稀勢の里が本能的で強烈な一撃を披露した。
横綱として2度目の結びの一番。松鳳山の突きに対し、下からあてがって出る。だが、低く鋭い突進を食らい、両差しを許した。今場所初めて、新横綱の顔が引きつる。ともかく左上手をとるが、押し込まれた。まずは左から小手投げ。そして右腕をブンと振る。相手の左ほおをとらえ、「邪魔だ」とばかり土俵へ向けてたたきつけた。
1場所15日制が定着した1949年夏場所以降の新横綱は32人いるが、初日から8連勝したのは稀勢の里で5人目だ。45本の懸賞金の束を両手で受け取り、右の小脇に抱えて引き揚げた。ヒヤッとしたかと問われ、「まあ、いろんなことがありますから」。最後はとっさに右が出たかと聞かれると、「我慢してね、やりました」と答えた。
大歓声の中での土俵入りも、すっかり板についてきた。横綱土俵入りは相撲をとる以上に疲れると言われるが、稀勢の里はプラス面を口にする。「体が整うし、気持ちも整います」
土俵入りで太刀持ちを務める弟弟子の高安も無傷で勝ち越した。「いい稽古してたからね、場所前は」と稀勢の里。火花の散るような勝負を重ねてきただけに、言葉に実感がこもる。田子ノ浦部屋勢が引っ張る展開で、浪速の春が中日を終えた。(篠原大輔)