米ニューヨーク・マンハッタンの憩いの場「セントラルパーク」。ここにある9千超のベンチのうち4393個に、市民が書いたメッセージ付きプレートが取り付けられている。結婚記念やプロポーズの言葉、亡くなった人々をしのぶ気持ちなど内容はさまざまで、あの大統領のプレートも。その数だけ物語がある。
公園のベンチに座ると、背もたれの部分の縦5センチ、横13センチのステンレス製プレートに気付く。120文字以内で、簡単な言葉が記されている。
「1946―2007 Gordon Bishop」。ナオミ・メラティ・ビショップさん(30)が、10年前に死去した父をしのんで付けたプレートだ。
ナオミさんは幼いころ、インドネシアから米国に移住した。ほどなく母が亡くなり、父が1人で育ててくれた。その父も60歳で死去。詩を書くのが好きだった父にとって、公園のベンチで思索にふけることが至福の時だった。
「父がアメリカで生きた証しを、父が好きだった公園に残したい」。ナオミさんはベンチのプレートを購入したいと考えた。
だが、プレートは公園施設への寄付の見返りとして付けられ、7500ドル(現在のレートで約83万円)が必要だった。
父の葬儀の際、「公園のベンチにプレートを取り付けたい」と思いをつづったカードを参列者に配った。すると、賛同した友人や親類から多額のお金が寄せられた。ナオミさんは現金と小切手をそのままチョコレートの空き箱に入れ、公園事務所を訪ねた。職員は「この支払い方法は通常は受け入れられない」と当初渋ったが、事情を知ると特別に認めてくれた。
プレートは父が愛用したベンチに取り付けられた。「父の名前を特別な場所に残すことができて、こんなうれしいことはない」とナオミさんは話す。
この「ベンチ・プロジェクト」は1986年に始まった。70年代からニューヨーク市は財政難で、園内の施設は荒れ放題だった。市と共同で公園を管理する財団は、維持・管理などに使う資金を寄付で集めることを発案。プレートは「お礼」という意味を込めた。最初は5千ドルで始まり、今は1万ドル(約111万円)でプレートがもらえる。高額に設定してあるのは、あくまで「寄付」と位置づけているからだ。
「セントラルパークに思いや故…