スウェーデンの高級車ブランド「ボルボ」。そのセダンは、クルマに疎い人にはいまだに、四角くて武骨な堅物、というイメージを持たれているかもしれない。だが、このほど発売された最上級セダン「S90」は、そんな固定観念を一変させる個性的な一台。その魅力の理由を試乗で考えてみた。
S90は、ボルボでは最上級に位置するセダンだ。ステーションワゴン版のV90とともに、今年2月に国内で発売された。メルセデス・ベンツEクラスや、BMW5シリーズ、アウディA6などのミドルクラスセダンをライバルに想定する。
車台には、2016年に国内投入された最上級SUV(スポーツ用多目的車)の「XC90」から導入された、「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」と称する自社開発プラットフォームを採用。フォルクスワーゲンの「MQB」以来各メーカーが採り入れ始めた、開発・生産コストを抑える車台のモジュール化だ。ボルボは今後、ミドルサイズの全車種を、SPAをベースに仕立てる計画だ。今年3月にジュネーブショーで初披露された中型SUV「XC60」の新型も、これに準拠する。
■ドイツ勢とは違う味付け
今回試乗したのは、税込み価格842万円の上級車種「T6 AWDインスクリプション」。
間近で見ると、エンジン横置きのFFベース四駆らしからぬ、絵画の黄金比率も参考にしたという伸びやかでゆったりしたサイドラインが印象的だ。車高も低く見えるため、実寸以上に堂々とした風格を感じる。品の良い家具を思わせるインパネは、つや消しの木目パネルや控えめなアルミ素材のあしらいが、下品にならない豪華さを醸し出す。ただ、タブレット端末のように画面スワイプで操作できるナビゲーション類は動作が直感的でなく、もうちょっと親切なインターフェースにしてほしい。
パワートレーンは、直列4気筒2リッターにターボとスーパーチャージャーを付けて320馬力を発生。8速ATが組み合わされる。コンパクトな設計ながら過給が効いたエンジンは十分以上の加速を得られ、意外と豪快に振り回せる。
逆にのんびりと高速道路を巡航したい向きは、車線逸脱も許さない高機能な運転支援システムに頼りながら安楽に流せる。車重がヘビーなため挙動におっとりした部分もあるが、いかついドイツ勢とはまた違った、味わい深い乗り心地と言える。
■ブランドを名乗る最低条件
おしなべて出来の良いクルマだが、何よりも評価したいのは、デザインも乗り味も、他のクルマとあまり似てないという点だ。
ボルボの乗用車部門はしばらく米フォードの傘下にあったが、リーマン・ショックの余波で経営危機に陥ったフォードが手放し、中国企業に買収された。その後は開き直ったような大規模投資によって、自前でSPAを開発し、母国スウェーデンの生産設備を増強した。新興国の潤沢な資本に支えられながら、商品開発部門は独立性を保っているとみられる。かつては、三菱自動車やフォードグループ内で車台を融通し合った結果、ボルボらしさが薄らいだ車種もあった。しかし現在は、北欧神話をモチーフにしたデザインや高い衝突安全性など、独自のブランドイメージを築き上げることで、世界の高級車ブランドに真っ向勝負を挑んでいる。
苦境のフォード傘下から離れ、中国資本「吉利汽車」の下でいっそうのプレミアムブランド化を目指すボルボ。エンジンの品ぞろえは直列4気筒の一本で通すという合理的な割り切りで開発コストを抑えながらも、自らの強みをブランドとして守り育てる姿勢は崩さない。そんなボルボの力作を見るにつけ、高級ブランドを名乗る最低限の条件は、ヨソのクルマに似ていないことだとつくづく思う。大グループの合従連衡にのみ込まれまいとブランディングにいそしむ国内メーカーにも、そこはぜひ見習ってもらいたい。(北林慎也)