ニューデリーの世界ヒンドゥー協会本部に掲げられていたポスター。無数の神がコブ牛の体内に宿る=奈良部健撮影
牛を神聖視するヒンドゥー教徒が8割を占めるインドは、実は牛肉輸出大国。少数派ながら約2億人いるイスラム教徒が産業を主に担ってきた。だが、ヒンドゥー至上主義団体出身のモディ首相が「1強」となりつつある政治状況を背景に、業界やイスラムへの反発が急速に広まっている。
人口約2億人の最大州ウッタルプラデシュ州西部アリーガルにある牛肉メーカー、アラーナ社の食肉処理工場を訪ねると、後ろ脚をチェーンでつるされた牛から、脂肪分や骨がライン作業で手際よくそぎ落とされていた。
だが、二つあるラインのうち1本は止まったまま。工場長のアヤズ・シディキさん(42)は、「1日平均2千頭を処理していたが、4月に入って300頭に激減した」と肩を落とした。
同社は、冷凍牛肉をマレーシアやベトナムに輸出。工場で働く約2500人の大半はイスラム教徒だ。国内の牛の食肉処理の半分はイスラム教徒も多いウッタルプラデシュ州で行われているという。
ところが、農家から牛が集まらなくなったという。牛を運んでいた人たちが暴徒に襲われた事件が大々的に報じられたことが背景にあると、シディキさんは考えている。
事件は西部ラジャスタン州で今月1日に起きた。牛をトラックで運んでいたイスラム教徒5人が、ヒンドゥー教徒とみられる約10人の男らに鉄棒やれんがで殴られ、1人が死亡した。
襲われた1人アズマト・カーン…