熊谷東中が配ったリストに記載されていた情報
埼玉県内の中学校が、いじめや非行防止の会議で、素行に問題があるとされる生徒のリストを配った。名前や住所、「特性」、顔写真も記載。保護者から抗議を受け、学校側は謝罪した。ある程度の個人情報がなければ非行防止の取り組みは難しいという声もある。情報はどう扱うべきなのか。
「素行に問題」生徒13人の情報流出 埼玉・熊谷の中学
1月、熊谷市立熊谷東中学校。「いじめ・非行防止ネットワーク会議」で、小学校長やPTA関係者、自治会長ら17人に、学校から「地域ぐるみで見守る必要がある生徒」のリストが配られた。1~3年の13人の名前や住所、「学力が低い」「性的な興味が強い」などとも記され、顔写真も5人分あった。「取扱注意」とあったが、学校は回収せず、13人が持ち帰った。会議後、リストの存在を知った保護者が抗議。学校は県警熊谷署と市教委に配った分以外のリストを回収した。保護者からはその後「資料がネットに流れている」との抗議もあったが、学校によると、ネットへの情報流出は確認できていないという。
会議は2015年に設けられ、過去に「生徒の名前や顔がわからないと対応できない」と要望があり、初めて個人名が入ったリストを配った。問題発覚後の3月の保護者説明会では「詳細な情報が必要なのか」「プロジェクターで示せば良かった」との声が上がった。西博美校長(当時)は「特性など必要ない部分まで記載し、回収も怠った」と陳謝した。
学校がこうした場を設けているのは、痛ましい事件を防げなかった過去があるからだ。
川崎市で15年、中1の上村遼太さん(当時13)が年上の少年らに殺害された。事件を検証した市の報告書は「関係部署が相互に連携した十分な対応が図れなかった」と分析。学校と、児童相談所や警察、地域の人々も加わった協議会の活用を再発防止策に挙げた。埼玉県東松山市で昨年8月、アルバイト井上翼さん(当時16)が死亡し、少年5人が起訴や少年院送致された事件も同様だ。県教委などの検証委員会は「非行が顕著になる前から、学校と関係機関で情報共有すべきだった」と指摘。警察や民生委員らによる定期的な会議の設置推進を提言した。
連携にあたり、個人情報をどう扱うのか。東松山の事件後、県教委とは別に再発防止策をまとめた東松山市の中村幸一・市教育長は「新設する生徒指導専門職員に個人情報を扱う専門性を持たせ、管理させる」と話していた。
文部科学省が04年に各都道府県教委に送った通知では、学外の組織との「日常的な連携の推進が重要」とし、個人情報については事前に扱いに関するルール作りを促した。同省は川崎市の事件後の15年3月にも、教委を通じて全国の学校に、警察との間での子どもの名前などを含む情報共有や、地域住民や関係機関との連携を求めた。
ネットワーク会議について詳しい早稲田大学社会安全政策研究所長の石川正興教授(少年法)は、今回の問題について「抽象的な事柄なら問題ないが、詳細な個人情報を共有するなら人選は慎重にすべきだった。顔写真や特性などは、緊急対応が必要なときなど一定の条件に限られるべきだ」と指摘する。「学校も警察も守備範囲は限られている。適切な対応を取るためには『横割り』の組織作りが必要だ」とした上で「原点は子どもの健全育成。学校は共有する情報に十分注意を払い、情報の取り扱いについてもしっかり説明する必要がある」と話す。(角拓哉、川崎卓哉、田中正一)