匿名通報アプリの仕組み(柏市教委提供)
千葉県の柏市教育委員会は、今年度から市立中学校全20校の1年生を対象に、いじめを傍観しないための授業を始める。さらに、いじめを匿名で通報できる米国発のスマートフォン専用アプリを全国の公立校で初めて導入し、市立中の全ての生徒に無料で提供する。増えるネットいじめの早期発見と抑止につなげる狙いで、今月下旬に授業を開始する。
市教委では、無料通信アプリ「LINE(ライン)」への悪口の書き込みなど、インターネットを介したいじめへの対応を検討してきた。中学1年のいじめの認知件数が小中学校の9年間を通して最も多いことも踏まえ、自殺などの深刻な事態になる前に、この年代に対策を立てることにした。
注目したのは、いじめを周りで見ている傍観者。自らが標的になるのを恐れて見て見ぬふりをすることで、いじめを助長しかねない存在になることから、生徒の意識を変えるために、「傍観者の視点で考え、議論する授業」を実施する。
授業は50分で、千葉大学教育学部の藤川大祐教授らと共同で開発した。中学1年のクラスを舞台にした約10分間のビデオドラマの教材では、SNSで男子生徒の悪口が書かれているのを見た女子生徒の対応が描かれ、傍観者の行動の大切さを気づかせる。授業を通して、いじめを許容しないクラスの雰囲気をつくることを目指すという。授業はNPO法人企業教育研究会(千葉市)に委託。まずは3年間、実施するという。
さらに、米国で2014年に開発されたスマホ用アプリ「STOPit(ストップイット)」を、2、3年を含む市立中の全生徒に提供する。「匿名で報告・相談できる」(市教委)のが特徴で、販売元のストップイットジャパン(東京都)によると、米国では約6千校、266万人が利用。日本では昨年初めて導入され、私立の小中学校3校で使われているという。
導入の背景には、いじめを周りで見ても教員や親に相談しないケースがある。いじめを受けた生徒に対する市教委の調査でも「誰にも相談していない」と答えた人が5%いた。アプリは、こうした生徒に対するセーフティーネットの役割も果たすという。
アプリは、立ち上げるとアイコンを表示。「報告」をタッチすると、匿名で市教委に文章を送信できる仕組みで、画像添付も可能だ。市教委側とやりとりもできるが、相手には学校名と学年だけが伝わるという。「助けを求める」をタッチすると、相談窓口など関係機関の電話番号一覧が出て、すぐに電話をかけることができる。
ただ、課題もある。1日にあった市いじめ問題対策連絡協議会では、委員から「手軽なのはいいが、先生らに相談するのが前提」「すべてこのアプリで済ませればいいとなったら本末転倒」などの意見が出た。
市教委学校教育課の佐和伸明副参事は「いじめを相談できない人たちの手段の一つ。命を落とすようなことがないようにするには今のままでは不十分で、早期発見できない可能性も高い。少しでも早く発見できる手立てが必要」と話している。(上嶋紀雄)