稀勢の里(左)は押し出しで遠藤に敗れる=山本裕之撮影
(17日、大相撲夏場所4日目)
特集:どすこいタイムズ
土俵下、東方のたまり席に突っ込んだ稀勢の里は動きを止め、宙をみつめた。初めての金星配給。一つの勝負のあやがあった。
立ち合いからやや押し込まれた位置で、右の張り手が遠藤のほおをとらえた。遠藤が滑るように右ひざからガクッと落ちる。「危ない、と思いました。向こうは『勝負あった』と思ったかもしれない」と遠藤。
しかし、今年初場所時点から体重が9キロ増えた稀勢の里のおなかに遠藤の頭が引っかかる格好になり、遠藤は生き残った。
そこからの横綱は、突き上げるように始まった遠藤の反撃になされるがまま。苦し紛れのはたきも不発に終わり、押し出された。
横綱はほぼ無言。あの瞬間、油断はあったかどうかも言葉にしなかった。
立ち合いから足が出ていたのは遠藤の方だ。八角理事長(元横綱北勝海)は言った。「押し込んでの引きなら、遠藤はそのまま落ちる。(横綱の)腰が高いから押し込まれている」
大関時代は取りこぼしが多かった稀勢の里だが、新横綱だった春場所は平幕に8連勝。けがを抱える今場所も、2人の平幕の挑戦を退けていた。この日勝って、新横綱場所からの対平幕戦を11連勝とすれば、15日制が定着した1949年夏場所以降では6位の千代の山に並ぶところだった。
稀勢の里の意識は無論、そこにない。横綱の責務として口にする「優勝争い」が遠ざかった事実がただ、重いはずだ。(鈴木健輔)