記者会見する前川喜平・前文科事務次官=25日午後5時8分、東京・霞が関、飯塚晋一撮影
学校法人「加計(かけ)学園」が国家戦略特区に獣医学部を新設する計画について、前川喜平・前文部科学事務次官(62)は25日、東京都内で記者会見した。前川氏は学部の新設が「最終的に内閣府に押し切られた。行政のあり方として非常に問題がある」と明言。理由として、獣医師が将来不足するのかどうかなど、新設を認めるのに必要な根拠が示されないまま、手続きが進んだことなどを挙げた。
特集:加計学園問題
前川氏は違法な「天下り」問題に関与したとして、今年1月に引責辞任した。辞任から間もない事務次官経験者が、政府の方針に対し、記者会見で真っ向から反論するのは極めて異例だ。
民進、共産両党は同日、前川氏の国会での証人喚問を求める方針を示し、前川氏は「証人喚問があれば、参ります」と述べた。
前川氏は会見で、獣医学部の新設が認められた根拠を問題視した。政府は2015年6月、規制改革など経済活性化を進めるための「日本再興戦略2015」を閣議決定。国家戦略特区に獣医学部を新設する方針を示し、①生命科学など新分野で人材ニーズがある②すでにある獣医学部などでは対応が困難――など4条件を設けた。だが、前川氏は加計学園の計画について「既存の大学ではできないことなのか、などの検証がされておらず、4条件に合致する根拠が示されているとは思えない」と指摘した。
また、獣医学部の新設を認める規制改革には、獣医師の需要見通しなどの検討が前提になっていたが、前川氏は、需要見通しや生命科学などの分野での人材ニーズについて「(担当する)農林水産省や厚生労働省が明確な見通しを示してくれなかった」と指摘。「特例を認めるべきだという結論が出てしまった。文科省として負いかねる責任を負わされた」と語った。
前川氏は、文科省が内閣府から「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」などと言われたと記録された8枚の文書について、次官在職中の昨年9~10月に「担当の専門教育課から報告を受けた際に受け取った文書に間違いない」と改めて明言した。
一方、菅義偉官房長官は25日の会見で「国家戦略特区は規制の岩盤にドリルで風穴を開ける制度で、今回の獣医学部新設については国家戦略特区法に基づく手続きを経ており、行政がゆがめられたという指摘は、まったくあたらない」と述べた。(水沢健一)
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〈加計学園の獣医学部新設〉 地域限定で規制緩和を認める「国家戦略特区」で、学校法人「加計学園」が運営する岡山理科大の獣医学部を愛媛県今治市につくることが今年1月に認められた。予定通り来年4月に開学すれば、1966年の北里大以来、52年ぶりの獣医学部の新設になる。今治市は16・8ヘクタールの土地を建設用地として無償譲渡したほか、愛媛県と今治市で96億円の建設費を補助する予定。獣医師養成向けの入学定員は160人で、国内では最大規模。現在、文部科学省が設置を認可するか審査中。学園理事長の加計孝太郎氏は安倍晋三首相の長年の友人で、異例の速さで特区での新設が認められたことなどから、野党が「特別な便宜が図られたのではないか」と追及している。