数々の名勝負の舞台となった阪神甲子園球場
「高校野球というのは、日本の野球文化の骨格なんです」と語ったのは長嶋茂雄さん(81)だ。
「郷土意識と相まって、人は高校野球に接すると、あの多感な時代に、一瞬のうちにプレーバックする」
プロ野球巨人の監督を退任した翌2002年に、夏の甲子園大会を観戦しながら熱弁をふるった。
投票受け付け中! 甲子園ベストゲーム47
代表校のプレーに地元は一喜一憂し、全国各地には遠く離れた故郷に思いをはせる人たちがいる。
長嶋さんと同じ千葉県出身の土屋正勝さん(60)は、銚子商のエースとして1974年夏に全国制覇を果たした。翌75年にプロ野球中日に入団し、巨人とのオープン戦に登板した時のことだ。巨人の監督だった長嶋さんが三塁コーチボックスから、「土屋、がんばれ」と何度も声をかけてくれたという。「びっくりしたけど、うれしかったね」
長嶋さんらしいエピソードと言えばそれまでだが、損得を超えた郷土意識とはそういうものなのかもしれない。
戦後間もない49年に初出場優勝した湘南(神奈川)は地元の藤沢、鎌倉市民に大歓迎され、トラックの荷台に乗ってパレードした。65年に優勝した三池工(福岡)のパレードは県内150キロにも及んだ。人出は約20万人。「あんたたちが優勝して、みんな仲良うなったとよ」とのちに言われた選手もいる。
勝者に限った話ではない。58年に延長十八回引き分け再試合の末に徳島商に惜敗した魚津(富山)は、オート三輪の荷台でパレードした。「負けたのに何でやろ」とエースの村椿輝雄さん(76)は思ったそうだが、「よく頑張った」「ありがとう」のかけ声がうれしかったと懐かしむ。
球児たちは故郷の応援に勇気をもらい、そのプレーが故郷を元気づけてきた。
そして、夏の全国高校野球選手権大会は来年、第100回の節目を迎える。私たちの故郷にとって忘れられない試合、チームを、高校野球ファンの皆さんと一緒に選びたい。
あの夏の記憶に思いを巡らせれば、あっという間に心は故郷に飛び、あの時代へとタイプスリップしていく。(編集委員・安藤嘉浩)
◇
■投票受け付け中です
全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)の名勝負・名試合を選ぶ企画「投票! 甲子園ベストゲーム47」が、朝日新聞デジタルで始まりました。ファンからの投票を募り、各都道府県の「ベストゲーム」を選びます。結果は、公式ランキングとして8月に発表します。
全国高校野球選手権大会は、2018年に100回大会を迎えます。この節目を前に、「ベストゲーム」をみんなで決めます。
都道府県ごとに10試合をエントリーしています。白熱した名試合や球史に残る大逆転劇はもちろん、あの悔しい敗戦だって、後輩たちの躍進につながっている…。そんな思いから、それぞれの試合を選びました。都道府県の高校野球連盟理事長の声も参考にしています。
投票していただいた方の中から抽選で100名様に、公式球やタオルなどの選手権大会オフィシャルグッズをプレゼントします。いずれかの試合に投票後、応募ページからご応募ください。
公式ランキング発表後、各都道府県ごとに特に注目の1試合をピックアップして、大型企画で振り返ります。当時の選手や関係者を再び取材し、計47試合を当時の試合映像や記事で紹介します。99回大会終了後、随時更新予定です。