１９６６年に静岡県清水市（現静岡市清水区）で起きた一家４人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん（８１）の再審開始決定をめぐり、その決め手となったＤＮＡ型鑑定について、東京高裁から検証を依頼された法医学者が「鑑定手法は再現できず、信用性がない」とする報告書を提出したことがわかった。同高裁が再審を開くかどうかの判断に影響を与える可能性がある。

報告書を出したのは、検察側推薦の鈴木広一・大阪医科大教授で、６日までに書面を提出した。

検証したのは、本田克也・筑波大教授（弁護側推薦）が用いた「選択的抽出法」。「犯行時の着衣」とされたシャツの血痕からＤＮＡ型を抽出した。２０１４年の静岡地裁決定は、血痕のＤＮＡ型は袴田さんと一致しないとする本田教授の鑑定結果を「新証拠」とし、再審開始決定の決め手のひとつとした。

シャツには事件と無関係の人の唾液（だえき）なども付着した恐れもあるが、鑑定で使われてほぼ残っていない。鈴木教授は、「本田教授の手法で鑑定を試みたが、試薬がＤＮＡを壊して採取できなかった」と結論づけたとみられる。

報告書の提出を受け、高裁は秋にも両教授を尋問する意向を示している。

高裁に審理が移って約３年。高齢の袴田さんは健康問題を抱え、弁護団は迅速な審理を求めている。「本田鑑定では試薬を使ってもＤＮＡが出た。手法を批判する鈴木教授の検証は科学的反論になっていない」と訴える。一方の検察側は、本田鑑定で検出したＤＮＡについて、「第三者のものが混入した可能性がある」と主張している。