1964年東京五輪の選手村の食堂。3千人収容だった
2020年東京五輪・パラリンピックで、約1万人の選手をはじめ、関係者や観客にどんな食べ物、飲み物をふるまうのか。提供する料理は1500万食を超える見込みで、大会組織委員会は食材から食器に至るまで検討を進めている。
「選手にとって、大会中の唯一の楽しみは食事。ロンドン大会ではローストビーフ、北京大会では北京ダックに長蛇の列だった」。パラリンピックに3度出場した射撃の田口亜希さん(46)は懐かしむ。また、ロンドン五輪にバドミントン混合ダブルスで潮田玲子さんとの「イケシオ」ペアで出場した池田信太郎さん(36)は「どんな食事が出るか、選手の関心は高い」としたうえで、「食堂は広く、ビュッフェで好きなものを選ぶと、選手が散らばってしまい会いにくかった。一方、有名選手には選手やボランティアが群がった。ストレスになってはいけない」と訴える。
招致で「おもてなし」を訴えた東京にとって、食は重要なテーマの一つだ。約1500万食のうち、選手村で200万食を提供する予定。大会組織委員会は選手村などで出す飲み物、食べ物について考える会議を今春から、月1回のペースで開いている。メンバーは田口さん、池田さんら元選手、ホテルの総料理長、ケータリング業者ら16人。今夏に基本的な考え方の案をまとめる。
試合直前の選手は体調管理に細心の注意を払う。会議のメンバーを務める管理栄養士は「選手の流行を知らないと、食べてもらえない」と助言する。現在は、凍らせた野菜や果物をミキサーにかけたスムージーが人気という。小麦粉のたんぱく質・グルテンを含まない「グルテンフリー」の食材も、男子テニスの4大大会で12度優勝のジョコビッチ選手(セルビア)が好んで食べることで知られ、近年の流行だ。
ドーピング検査で陽性にならない食材選びも重要だ。さらに、宗教上の理由で豚肉や牛肉が食べられない選手もいれば、ベジタリアンもいる。味付けも欧米、アジア、南米、アフリカで様々だ。
その中で、和食文化をどう発信するかも課題の一つ。コメひとつとっても、日本でなじみのある、粘りがあって粒の短い品種が海外選手の好みに合うかという問題がある。「事前合宿やテスト大会で和食に触れてもらう機会を作った方が良い」との意見のほか、グルテンフリー食材について「米粉を活用するなど、日本の新しい技術を活用したらどうか」とのアイデアも出ている。