全柔連の臨時理事会後、そろって記者会見した(左から)山下泰裕、宗岡正二の新旧会長
現役時代、無敵の203連勝、対外国人無敗を誇った山下泰裕氏が全柔連のトップに座った。2020年東京五輪へ向け、勢いはついた。
「誰もが憧れる柔道界を」 全柔連新会長の山下泰裕氏
選手強化は心配していない。金野強化委員長以下、男子・井上、女子・増地両監督をはじめとしたスタッフは充実している。リオデジャネイロ五輪で男子全階級、女子も7階級中5階級でメダルを取った力をさらに磨いてくれるだろう。
不安は柔道界の内情にある。メダルにばかり目が向くが、下地を支える登録人口が06年度から11年連続で減少している。確定している16年度は約15万9千人。最近で最も多かった05年度が約20万3千人。縮小傾向に歯止めが掛からない。
最大の要因は頭部損傷の報告が続く重大事故の発生だ。12年度から3年間は死亡者はゼロだったが、15、16年度は計4人が確認された。以前は受け身を覚えることで「日常生活でもけがをしない」と言われた柔道が、今は「けがをするスポーツ」と心配される。
前体制は指導者の暴力、助成金不正受給などの問題で危機的状況の中でスタートした。礼節、コンプライアンスの徹底を訴え、強行に指導力を発揮した。しかし、「非常事態」が収まった安定期の今、草の根で支えてきた全国の柔道人らとの一体感をどう出すか。手腕が問われる。
実は柔道界の外にも障害はある。リオ五輪で日本選手団副団長を務めた山下氏には今後、スポーツ界全体でさらなる活躍が求められそうだ。その場合に、会長を的確にサポートする人材が全柔連中枢に必要。3人に増やした副会長が実情を把握し、国民栄誉賞受賞者の山下氏にも遠慮なく進言できるかも、新体制の成否の鍵を握る。(竹園隆浩)