練習をする富島野球部。時間を無駄にしないため、分刻みでメニューが組まれている=日向市鶴町3丁目
お金のかかるイメージがある高校野球。1年間に選手1人にかかる費用は全国平均20万円超とも言われている。用具代、ユニホーム代、遠征代……。チームによっては父母会でユニホームをそろえる部もある。金銭面で保護者にかかる負担は大きい。それに伴って、監督たちからは「最近の生徒は過保護」「お金を出してもらえることを当たり前に思っている」と厳しい言葉も聞こえてくる。
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富島(宮崎県日向市)は毎年5月に関東遠征を行う。関東の強豪校との練習試合を通してプレーや態度を勉強する。今年は横浜隼人(神奈川)へ遠征した。大所帯ながら「礼儀と感謝の心が浸透していた」という相手校の姿を見て衝撃を受けた。地元に戻ってから練習の雰囲気が引き締まった。
遠征にかかる費用は1人6万円前後。「少しでも保護者の負担を減らすためにアルバイトをさせてます」と浜田登監督(49)。
同校では生徒のアルバイトは禁止されているが、部単位での申請があれば、長期休み中に限り例外的に認められる。しかし、朝練、授業、放課後練習、自主トレ、休日は対外試合と忙しい球児にアルバイトをする時間はない。そこで年明けに8日間の休みを与え、「なんでもいいから働くこと」と号令をかける。
郵便局での年賀状配達、ガソリンスタンド、団子屋、建設会社の木材配達、病院事務など、部員それぞれが自分のアルバイト先に散ってお金を稼ぐ。
選手だけでなくマネジャーも働く。米良愛梨さん(3年)は地元のうどん屋で1週間働き、皿洗いやおでんの調理などを担当した。「立ちっぱなしで何時間も働くのが本当に大変だったけど、その分、給料やまかないがもらえたときのうれしさを感じられました」。3万5千円のお金を稼いだ。
部員らがアルバイトで稼いだお金は全額、保護者に渡すことになっている。遠征に参加できなかった部員も、日々の野球部での活動費に充てられる仕組みだ。浜田監督は「1週間で稼げるお金には限度があるが、額よりも稼ぐことの大変さを知ってもらいたい」と意義を話す。
鈴木里央(りお)選手(3年)はダイコン農家でアルバイトをした。「自分で稼いだお金で行く遠征と思うと無駄にできないという気持ちになった」と言い、遠征以外の普通の練習もただではできないことを痛感した。
母子家庭で、普段から「自分がやりたいように野球をやれるのはやっぱり親のおかげ」と考えている。チャンスで打てずに落ち込んでいたときは「打てんでもいいっちゃが」と、精神的にも母親に背中を押してもらっている。
「『感謝の気持ちを忘れずに』という言葉を使う人は多いけど、感謝だけではだめだと思う。高校生なりの『うまくならなきゃ』という責任を感じて練習しています」。アルバイトを通じて、その思いをますます強くした。
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県内の高校野球部にアンケートを取ると、「休み期間にアルバイトをするのが恒例」と答えた学校が複数あった。
小林秀峰でも年末年始に夏の遠征費や用具代を稼ぐアルバイト期間を設けている。麦生田(むぎうだ)温司主将(3年)は毎年、実家近くの神社で、初詣客向けの屋台で働く。稼いだお金はすべて部で管理し、2月の卒部式では、余った分が「新生活の足し」として返還されるという。