朝日新聞デジタルのアンケート
内面と見た目の関係、あるいは関係のなさについて、多くの声が届いています。見た目と、特に女性の現実、についても。幸せは、美しさの近くにあるのでしょうか。アンケートに寄せられた声を紹介するとともに、私たちが人の見た目からどんな情報を受け取り、どんな影響を与えられているかについて、専門家に尋ねました。
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■内面が表に出るのか
第1回のアンケートには、人の内面と見た目の関係について触れた考察も多く寄せられました。
●「50代の女性です。若い頃から容姿には恵まれていると、感じています。特に何もしなくてもそこにいるだけで、人は寄ってきて自分の中身より高い評価をしてくれます。(実際中身はそんなにいい人ではないのに……)就職後も、仕事が出来なくても怒られることも一度もありませんでした。現在ももういい年なのに童顔のせいか、実際の年より若く見られ、周囲の目も若い時に感じた羨望(せんぼう)のようなまなざしを感じることがあります。この年になると、人生を振り返ることがあり容姿には随分助けられたと思います。が、もっと中身を耕すことが出来なかったのかと後悔の念にかられてるのも事実です。中身が空っぽな自分が嫌いです」(滋賀県・50代女性)
●「この国は特に女性に関してルッキズムが強く、女性は生きづらい社会だと思う。女性の外見を、ひどくからかうテレビ番組が横行しているのも、先進国ではありえない状況。男性が、女性を容姿で順位付けするような風潮が強まっていて、女性もその価値観を内面化してしまっているように思う。女性にのみ化粧が奨励されるなど、外見を整えることに関する性差別も強い。かつて、一切顧客に会わない職場で化粧をせずに勤務していたら、男性の先輩社員から吐き捨てるように『化粧くらいしてこいよ』と言われたことも。女性として生きるうえで、面倒を避けるために外見にある程度気を使わざるをえないが、外見を評価されずに生きたい、と強く思う」(神奈川県・40代女性)
●「本当に問題なのは見た目ではない。自分の人格や能力が劣っているために負けているにもかかわらず、自分が負けたのは外見のせいだと思い込み、人を見た目でしか判断していないと負け惜しみを言ったり、変に気取って高級品を身に着けておしゃれをすれば振り向いてもらえるかのように思いこんであがくことだ。私なら、人はまず人格、そして感性の鋭さと利発さで判断する。勘のいい人なら、話していて、こちらの気持ちをくんでくれるものだ。それをせずに、自分の思い通りに操り、言いくるめようとするやからは掃いて捨てるほどいるが、そんなやからは最初から相手にしない。見た目以前の問題だ。もちろん、身だしなみの次元は別問題」(海外・50代女性)
●「人の内面は見た目にあらわれる。人は見た目で判断されることが分かっているのに、自分で出来る範囲の努力をしない者は、社会に受け入れてもらわなくても良いと思っている人でしかない」(京都府・30代男性)
●「見た目には、その人の『らしさ』が表れると思います。そのため、たとえ自分の見た目に自信がなかったり、気に入らなかったりしても、今の自分らしさを認め、見た目も背負って生きていく力が誰でも必要だと思います」(新潟県・10代女性)
●「きれいになろうとする努力をすることで、自分の内面にも自信がついてきました。見た目の印象もある程度必要だと思いますが、コンプレックスに対してどう向き合うか、どう行動するかが大事なんだと思います」(東京都・40代女性)
■ブスと言われた傷、今も
社会の現実について書かれた意見の一部です。
●「最近の様々なメディアに触れていると日本の世の中はどんどん見た目主義が加速しているような一面があると思います(インスタグラム、画像処理アプリ、テレビの報道の仕方など)。その半面、世界各国では見た目主義への警鐘は鳴らされているとも思います。自分の価値観や一般論から見た目で誰かを判断するクセを私たちが完全に手放すことが出来たら社会はもっと生きやすくなるのではないかと感じます」(岡山県・40代女性)
●「私は20代前半の女性です。自分で言うのも変ですが、容姿はかなり良いと言われますし、自分でもそう思います。毎日の通勤で、顔や胸元などをジロジロ見られますし、休日に買い物などに出かけると毎回のようにナンパされます。また、大学在学中の就職活動では周りが何十社と受けてやっと内定がもらえたと話す中、私は受けた会社のほとんどから内定を頂きましたし、私の学歴では到底内定がもらえないような企業からの内定ももらうことが出来、今はそこで働いています。その時にやはり他人を評価する際は人の顔やスタイルなどを重視していると感じましたし、特にこの現代の日本では女性は顔やスタイルがほぼ全てと言っても過言ではないのでしょうか」(京都府・20代女性)
●「小学生の時は男子児童にブスといわれ、中高では男子学生に『アゴ笑』と嘲笑され、自分の顔が嫌いになった。それからは、おとがいばかり気になって、写真に撮られることが本当に嫌になったし、あごだしでさえ言葉を聞くと嫌な気持ちになる。付き合った人もそれなりにいるし、奇麗だ、美人だといわれることもあった。コンプレックスを昇華させようと化粧もファッションも学問も仕事も頑張ったし、結果もでた。しかし、いまだに傷ついた心は治せていない。書いている今も涙が止まらない。夫にも子供にも愛されているのに、今も抜け出せない自分が悔しい」(東京都・30代女性)
●「長い目で見たら性格が重視される」(東京都・20代女性)
●「人間、見た目でなく中身が大切と言われるけれど、そもそも、その相手に興味を持つ見た目がないと中身を見ようとも思わない」(大阪府・30代女性)
■性格・能力…知る手がかり
見た目は人にどんな影響を与えるのか。慶応大の川畑秀明准教授(心理学・脳神経科学)に聞きました。
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私たちは、見た目を手がかりに人の性格や経済力、健康、能力、遺伝情報などを無意識に読み取ります。そのため見た目で判断するということが生じます。実際、顔や体に、その人の様々な情報が表れることが研究で明らかになっています。
たとえば、男性ホルモンのテストステロンの分泌量が多い男性は顔の横幅が広がります。これは「男らしい印象」を与えると言われます。企業の経営者に多いとされる顔立ちで、「成功しそう・積極的」と評価されやすい。一方で、「支配的・暴力的」とも見られます。実際、そうした顔の男性の性格を調べた研究では、攻撃性の高い傾向がみられました。
見た目のよい人はコミュニケーション能力や説得力が高いとみなされ、就職では有利に働きます。教師の外見が生徒に与える影響について調べた研究では、見た目のよい教師の授業のほうが、説明がわかりやすいと評価され、生徒の成績も高くなりました。
生徒の見た目の魅力と成績に関する調査もあります。見た目のよい子は教師の期待が高くなる傾向にありました。その期待に応えようと子どもは頑張るため成績が伸び、さらに教師の期待も高まる好循環が起きるという結果でした。
美醜は脳が判断します。顔で言えば「平均的な顔」「左右対称の顔」を美しいとみなします。これは、平均や対称性からずれるほど、病気のシグナルだと脳がとらえてしまうからだと考えられます。子孫繁栄のための生物としての戦略です。ただ、現実の美醜の判断基準は時代や国によっても異なり、メディアの影響は小さくありません。
見た目を重視する現実がある中で、人と関係をうまく築くための鍵は、自らの見た目を受容することです。受け入れていないと、否定的な感情が見た目に表れてしまいます。受容した上で「どう生きたいか」「どんな自分になりたいのか」を考え、見た目にも気を使っていけば、性格や能力さえ変えていくことができると思います。
外見が内面を映し出す事例を紹介してきましたが、これらは統計的な傾向を示しているに過ぎず、一人ひとりの個人にあてはまるわけではありません。それに、魅力は外見だけでなく、振る舞いや言葉遣いにも反映されます。
関係が長期にわたると、見た目の影響は減っていくことがわかっています。結婚では、性格や経済的価値観などの共通点が大切になります。夫婦の見た目は時間がたつにつれ、似てくるとの研究結果さえあります。
見た目が美しくないと、幸せな人生が送れないとあきらめる必要はありません。(聞き手・岩井建樹)
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