お茶当番廃止を伝える長野西の貼り紙=6月23日、長野市
13日に開幕した第99回全国高校野球選手権富山大会。富山県入善町の稲村栄寿(えいじゅ)さん(52)の長男・英俊君は、県立の入善の3年生として最後の夏に挑む。
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大会を前にした6月、栄寿さんは、パソコン画面に映し出された金額の一覧を見ながらつぶやいた。「長男が野球部に入ってから2年半でかかった費用は、60万円を超えますね」
英俊君が野球部に入った時、部共通の試合用ユニホームとチームバッグ(計2万1590円)を購入、ソックスやスパイクなどを含めると計16万3500円かかった。さらに毎年、部費2万円と保護者会費1万5千円、遠征費1万円。体作りのためにサプリメントも買っている。「特に高い用具を買っているわけではなく、よそもこれくらいかかっていると思います」と栄寿さん。
お金以外の負担もある。遠征費を抑えるために保護者が車を出す時があり、栄寿さんも早朝からハンドルを握ったことが年に7、8回あったという。「でも、野球をすることで成長したと思う。最後の夏は、悔いの無いようにプレーして欲しい」
■周辺校に呼びかけ慣習廃止
今年2月、野球人口減を食い止めようと長野市で、意見交換会が開かれた。地域の野球指導に携わる約210人が参加。課題として挙がったのが、グラブやバットなど道具が多く、野球にお金がかかることや、保護者の労力の大きさだった。
小中学生のチームの指導者から、そうした負担を嫌ってサッカーなど他のスポーツに移る親子が多いとの声が相次ぎ、実行委員長を務めた長野西の大槻寛監督(35)は危機感を持った。「野球の面白さを知ってもらいたくても、敬遠されてしまうとどうしようもない」
手始めにできることからと考え、目をつけたのが保護者のお茶当番だ。長野西では、他校を招いて練習試合をする時は、保護者にお茶やアイスコーヒーを用意してもらい、相手校の観客らに配ってもらっていた。周辺の他校でも続く慣習だが、大槻監督は24校の監督に呼びかけ、今年4月にお茶当番を廃止した。
日本高校野球連盟によると、少子化の影響もあり、硬式野球部の加盟校数は2005年度の4253校をピークに年々減少し、今年度は3989校になった。大槻監督は「自分たちが先頭に立って保護者負担の軽減を図らないと、このままでは野球界全体が衰退する。高校野球界から、問題意識や改善策を広げていきたい」と話す。
◇
朝日新聞社が今夏の地方大会を前に、東京都や大阪府内の高校野球部にアンケートで保護者らの負担を軽減するための取り組みを尋ねたところ、多くの学校が危機感をもって何らかの対策を講じていた。
東・西東京大会に出場する262校では、約17%の44校が、「夏合宿の廃止」「練習着は自由」「電車での移動時は団体割引を利用する」など、何らかの軽減策をとっていた。
富士森(西東京)は新たに用具を買わずに済むよう、引退する3年生から練習用の上着(約3千円)とグラウンドコート(同1万2千円)を後輩に引き継いでおり、3、4年前のものを着ている部員もいるという。広瀬勇司監督(54)は「使えるものは使い回す。先輩から譲ってもらうことで、物だけでなく来夏への思いも引き継いでいる」と話す。
大阪大会に出場する176校のうち、約46%の81校が「練習用ユニホームを作らない」「遠征の回数を抑える」などと、具体的な対策をしていた。
生野工(大阪)では、部費を集めていない。工業高校の強みを生かし、打撃マシンのゴム交換やメンテナンス、金属トンボなどの溶接修理は、生徒や教員がしている。冬休み中に練習をしない日をつくり、部員がアルバイトをして合宿費を捻出できるようにしている。朝井亮監督(36)は「お金のせいで野球が出来ない子をつくりたくない」と話す。