毎年6月、「キリスト祭」が催される。十字架のまわりで村人が「ナニャドヤラ」を舞う=青森県新郷村、外山俊樹撮影
ごくありふれた、そのアスファルトの道には、知る人ぞ知る謎めいた異名があった。
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「キリスト街道」
青森県の南部地方、八戸と十和田湖の中間にある新郷村では、村を東西に貫く国道454号がそう呼ばれている。
由来はさておき、村人がその名に言いおよぶとき、屈折したニュアンスがにじみ出る。一瞬、伏し目がちになり、はにかむような……。
人口は約2600人。見渡すかぎり山ばかりの村は、青森県の酪農発祥の地だ。
6月4日、日曜日の朝のキリスト街道に、信号機がひとつしかない村では滅多に見られない数の車が東西から入りこんできた。それらの車は、年に1度の吉例の行事が催される会場をめざしていた。
つめかけた数百人の人びとが見上げる高台に、古びた木の十字架がそそり立つ土饅頭(どまんじゅう)がある。その下で、村長を筆頭にお歴々がそろって営まれる行事は、村でもっとも由緒ある三嶽(みたけ)神社の神官の祝詞(のりと)奏上と玉串奉奠(ほうてん)で始まった。
見ものと言われるのは、踊りの奉納だ。土饅頭をぐるりと囲んだ浴衣姿の村人が、物憂げな唄に合わせて盆踊りのようなステップを踏む。唄は延々と、呪文めいた不可解なフレーズを繰りかえすのだ。
♪ナニャドヤラ~、ナニャドナサレノ、ナニャドヤラ~
今年で54回目を迎える奇祭の名は「キリスト祭」。そもそもなぜ、キリストなのか。
奉納の踊り手をたばねていた佐藤久美子さん(68)は語る。「ナニャドヤラは、この地方に古くからある盆踊り唄ですが、ここで踊るときは背筋がしゃんとしますね。キリストのお墓の前ですから」
そう、あの土饅頭にはキリスト…