粕谷幸司さん
見た目重視の風潮について、変えられない・変える必要がないというアンケートの回答が4分の1ほどありました。変えるにはメディアが変わらなくては、という回答は4割近くになりました。この風潮と、どう向き合ったらいいのでしょうか。子どものころから、自分の見た目についてとことん考えてきたという男性に尋ねました。
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■第一印象で決めつけない アルビノ・エンターテイナー 粕谷幸司さん
肌や体毛が白いアルビノに生まれ、アルビノ・エンターテイナーとして活動する粕谷幸司さん(33)と、アンケート「見た目重視の風潮」について話しました。
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見た目重視の風潮は良くも悪くもあると思いますよ。外見で他人を傷つける風潮は嫌です。でも、「あの奇麗な人、好き!」って感情はすてきです。見た目がまったく影響しない社会なんて、ちっともおもしろくないですよ。みんな仮面をかぶって暮らすんですかね? 電化製品は単一色で、形も同じになっちゃいますよ。
僕は外国人と間違えられて「ハロー」って声をかけられることがあります。白いから。「可哀想」って勝手に同情されることも。でも、付き合いが長くなると、相手は僕の白さを意識しなくなるようです。
僕も見た目の第一印象から「こんな人かな」って推測します。でも、「こういう人だ」って決めつけないよう気をつけます。しゃべり方、声色、しぐさ、におい、話す内容と、様々な情報が入ってきて、本当の付き合いは、それからです。
アンケートに「不細工のせいで異性と交際できない」という声がありましたが、見た目のせいにするのはやめましょうよ。僕も新卒の就職活動でなかなか内定がもらえず、採用担当者に「君の見た目が……」と言われたこともあります。でも、「アルビノのせいで」とは考えませんでした。だってそのせいにしたら、前に進めなくなりますから。表情や服装、知識、トークの技術なんかは、努力すれば磨けます。
アルビノの自分を肯定できるのは、「白くてキレイ」と言って育ててくれた母のおかげです。僕は子どものころから、「人と違う自分って何者だろう」と、とことん考えてきました。アルビノを売りにエンターテイナー活動することが、僕なりの答えです。
初対面の人に、「こういう見た目ですけど、アルビノって知っています?」って始めることも多いです。説明すれば理解してくれる人は必ずいます。たとえ社会が変わらなくても、目の前にいる人と自分との関係は変えていけると、僕は信じています。(聞き手・岩井建樹)
■悩みバネに 高く飛ぼう
見た目重視の風潮と、どう向き合うのか。様々な意見が寄せられました。若い人たちの意見を紹介します。
●「目を一重から二重にしました。『目の細さが糸のよう』『腫れぼったい』など言われてきて、重たい一重まぶたがずっとコンプレックスでした。自分の身体にメスを入れる勇気がなかなか出ずにいましたが、去年の夏思い切って二重にしました。すると、見る世界が変わりました。今まで自信が持てずにいたのに、勇気が持てた気がします。昔の私も好きでしたが、今の自分はもっと好きです。残念ながら、見た目はかなり大切だと思います。自分の人生なのだから、整形によって自信を持って生活できるようになるのなら、少しぐらい整形してもいいのではないかと私は思います。私は整形してよかったと思っています」(大阪府・20代女性)
●「中身が大事とわかっていても、第一印象で話す相手を決めてしまうことが多いし、相手の中身を知ろうとする前段階で、見た目が良くないとそもそもその人について知ろうと思わないこともある。そんな自分が大嫌い。だから最近は、見た目がちょっとイマイチだなという人とでも頑張ってコミュニケーションを取ろうと努力しています。すると意外な話が聞けて楽しいです」(千葉県・10代女性)
●「見た目を理由に人から嫌われたり、疎外されたりという経験を幼い頃より繰り返している私は『見た目がよくない=だめな自分』としての自我が形成されて、何をするにも自信がもてない。見た目のせいにするなとか、結局中身が見た目に出るとかっていう意見をよく耳にするし、それも一理あるとは思うけれど、そういわれるとものすごくつらくなってしまう。もちろん、見た目や中身を少しでも磨く努力はしたい。でも、努力だけではどうにもならない『生まれつきの格差』が存在していることも確かだと思う。一個人の力では、見た目重視の世の中を変えることは難しい。でも、それが変わったらどれだけ楽になるだろうと、ずっと思ってる」(京都府・20代女性)
●「見た目のことですごく悩んでいるが、だからこそ『美しい』という基準がなくなったらもっと絶望すると思う(その価値観があるからこそこんなに悩んでいるのに、その悩みが無駄になる)。うまい落とし所がわからない。『人は見た目じゃない』じゃなく、『見た目が問題なほど醜くない』と言われないと安心できないまでに侵されている。自分が他人に100%受け入れられないことを外見のせいだと思ったり、内面のせいだと思ったり、とにかく自分を責めてしまう」(東京都・20代女性)
●「生まれた地域にハンセン病施設、障害者向け病院、支援学校、英語圏の人向け学校があったので、いろんな国から来た違う肌の色や骨格、思想や服装の人たちを見て育ちました。幼稚園の帰りには同じ曜日にスーパーで会うダウン症のお姉さんがいて他にも同じ制服を着ている人がいる中すぐにわかるのを『他と違うけど誰が誰だかわかりやすくていいな』と感じました。小学生で海外生活を経験し、みんな違うのはどこも同じだと確認し、違う人は違う扱いを受けていることに気づきそれが差別だと知りました。誰もが一度マイノリティーの経験をするだけで見方が変わると思います。多様性とは『自分は“皆が違う世界”の一人』であると知ることだと思います」(東京都・20代女性)
●「私自身容姿が醜いことをかなりいじられました。劣等感のおかげで『世の中の人は誰も彼も見た目を重要視する。それ以外の部分を伸長しないと自分は落後者になってしまう』という強い意思から勉学に励みいわゆる一流大学に進学することができました。一流大学だからなのか、皆が成長したのかわからないですが、人の容貌(ようぼう)に罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせるような人はめっきり減り、人間不信から脱却もできました。いま悩んでいる方に伝えたいのは、容貌の良しあしで人を馬鹿にするようなやつには負けずに、自分の長所を伸長させることに注力してください。そういったバネがあるあなたは周りよりもより高く飛べるのですから」(岡山県・20代男性)
●「私はJKと呼ばれる立場ですが、おしゃれや化粧に全く興味がありません。化粧は必要といいますが、私にはそれが自分の顔にありもしない絵を描いて、外側を飾るだけのことに思えてなりません。自分の顔に自信などない私ですが、将来、化粧はしたくないと強く思います。化粧をしたくてするのは分かりますが、したくない人も化粧をしないと迷惑――そんな考えを持つ社会に出ていくのは憂鬱(ゆううつ)です」(大分県・10代女性)
■とらわれている メディアも私も
メディアについて書かれた意見の一部です。
●「テレビのお笑い番組等で容姿をネタにしているものがありますが、学校や会社で同じことをするとアウトです。いじめです。でも、テレビで容姿のことを言われた芸人さんが笑って受け流し、いじる方もいじられる方も『おいしい』と思っているのを見ていると、学校や会社でいじられた(いじめられた)人も笑って済まさないといけない風潮になってしまう。そう思うようになってからは、テレビを見ているのがつらくなりました。そのテレビを笑ってみていると、いじめに加担しているような気になります。何も考えずに笑っている人たちは、どう考えているのでしょうか?」(京都府・50代女性)
●「スポーツの報道はその結果を中心になされるべきだろう。でも、実際には違う。容姿の良い選手の方が圧倒的に注目されている。美人アスリート、美しすぎるアスリート、ともてはやされる。順位が下の『美人アスリートペア』はインタビュー映像まで紹介したのに、上位のペアは結果だけの紹介だった。人は外見ではない。内面を磨けと言う。その通りだ。けれど、スポーツの世界にしてこうだ。一般の社会が違うはずがないではないか。一方で、そうやって外見ばかりを注目される側も好ましいことばかりではないだろう。本人の努力やその結果をきちんと見てもらえていないわけだから」(東京都・50代女性)
●「美魔女、男性でも見た目ケアなどなど、メディアが見た目重視の風潮をあおっているように感じる。是正されるべきだ」(広島県・20代女性)
●「見た目重視の風潮は何をどうしても変わらないでしょう。例えばアイドルグループ『嵐』の5人の見た目は格好いい。凡人の私が太刀打ちなんてできっこない。そりゃ世の中の女性にモテるのは、自分ではなく5人ですよ。じゃあどうするか。『面白く思われるにはどうしたらいいか』などと、イケメンとは違う土俵に立とうと努力します。そうすれば、イケメンよりは数少ないだろうけど、自分のことを理解してくれる方が現れるかもしれないから。芸能界で『三枚目』を売りにする俳優さんや一部のお笑い芸人の方には、私と同じような考えを持っている方も多いのでは」(高知県・30代男性)
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「見た目重視の風潮を変えるには」と尋ねたところ、15%の方が自分自身が変わらねば、と答えました。一方、メディアが変わるべきだ、との声は4割近くにも。右顔の筋肉が未発達のまま生まれた長男(7)と歩む父親として、私は「人は見た目が何%?」をみなさんと一緒に考えたいと思いました。寄せられた声を読み、そんな私自身が親として、メディアの当事者として、強く問われているのだと気づかされました。これからも、「見た目と社会」について考え続けます。(岩井建樹)
◆ほかに、高橋美佐子、船崎桜、守真弓が担当しました。
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