聖火がともったリオ五輪の開会式会場=2016年8月5日、ブラジル・リオデジャネイロのマラカナン競技場、長島一浩撮影
開会式が広島の原爆投下時刻と重なった昨年8月のリオデジャネイロ五輪で、大会組織委員会が「今日は広島の原爆の日」との場内アナウンスを流す計画だったことが、当時の組織委幹部への取材でわかった。国際オリンピック委員会(IOC)から「五輪の政治的利用にあたる可能性がある」との指摘を受け、前日になって取りやめたため、幻に終わったという。
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組織委で広報責任者を務めたマリオ・アンドラダ氏によると、バッハIOC会長のあいさつの後、「未来のために平和はとても大切なものです。今日は71年前に広島に原爆が落とされた日。戦争の悲劇を忘れてはいけません」とアナウンスする計画だったという。アンドラダ氏は「広島の原爆に触れることで、反戦のメッセージを込めるはずだった」と語った。
リオ五輪は昨年8月5日夜(日本時間6日朝)に開幕。広島への原爆投下時刻と開会式が初めて重なる大会となった。組織委は、オバマ前米大統領の昨年5月の広島訪問や、次の五輪開催都市が東京であることを踏まえ、開会式の1カ月半前から、式の中に「広島」「原爆」などの言葉を盛り込むことを検討していたという。だが式直前になってIOCが「政治的なメッセージはない方がよい」と指摘。五輪憲章が五輪の政治利用を禁じていることも考慮し、関連するナレーションを全て削除したという。
リオ五輪の開会式を巡っては、ブラジル在住の被爆者や松井一実広島市長が1分間の黙禱(もくとう)をするよう求めていた。アンドラダ氏はアナウンスを計画した理由の一つとして、こうした要請の存在もあったとした。ただ黙禱については「時間が長すぎ、開会式の雰囲気にもそぐわないため、難しかった」と明かした。
五輪では、これまでも紛争やテロの犠牲者について開会式などで追悼を求める動きがあったが、IOC側は「政治的な意味を持ちかねない」などとして認めていない。(リオデジャネイロ=田村剛)