試合後のスタンドへのあいさつを終え、グラウンドを引き揚げる大阪桐蔭の選手たち=19日、阪神甲子園球場、柴田悠貴撮影
「勝利」を確信した一瞬があった。九回裏2死満塁。だが甲子園にはやはり「魔物」がいた。大阪代表の大阪桐蔭は19日、3回戦で仙台育英(宮城)と対戦。1―2で逆転サヨナラ負けを喫した。史上初2度目の春夏連覇という未踏の頂をめざした夏は、8強を前に幕を下ろした。
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■役割と責任 後輩に託す エース・徳山壮磨君
「次の頂を見据えていこう」。選抜優勝に満足せず、自分の投球でチームを春夏連覇に導く。大阪桐蔭の徳山壮磨君(3年)は「それがエースとしての自分の責任」と思ってきた。
選抜の5試合で、計581球を投げ抜いた。全国の強打者を1人抑えるたびに、自信をつけた。
「甲子園での1試合は、グラウンドで練習する何百日分にも匹敵する」
自信はマウンドでのゆとりにつながった。「選抜であんな強力打線を抑えた。そんな簡単には打たれないと思えるようになった」
大阪大会。日本一のエースを、各校が徹底的に研究した。選抜前は外角のスライダーで三振を狙う配球が中心だったが、相手打者に見送られるようになった。
「研究されても、自分が投げ切らないと抑えられない」。そんな時こそ、得意の直球で内角を攻めた。
捕手の福井章吾主将(3年)は「内角にしっかり投げ込むことで、外角の変化球を生かすことができた」と話す。
大阪大会では5試合で登板し、42奪三振。決勝では西谷浩一監督(47)に「あいつが打たれても、他に抑えられる投手はいないと思った」と言わしめた。
2年生投手たちはそんな先輩の背中を追いかけた。
柿木蓮君は「試合が徳山さんを中心に動いているように見える」。横川凱君は「みんなのお手本」。根尾昂君も「制球力、打者を観察する力、全てにおいて頼れる先輩」と尊敬の思いを隠さない。
この日、先発したのは柿木君。「そばで声をかけ続けよう」。徳山君はそれがエースの自分の役割だと思った。
1点リードで迎えた九回。「後ろには自分がいる。思いっ切りいってこい」。そう言ってベンチで送り出した。
サヨナラの適時二塁打を打たれ、泣き崩れる柿木君に「ナイスピッチング。この悔しさ、忘れるなよ」。励ましながら、体を支え続けた。一番辛いのは柿木君だと思ったからだ。
最後の夏の試合。「九回2アウトまで取っても、まだ試合は分からない」。当たり前のことを改めて痛感した。
マウンドに立てなかったことは無念だが、「柿木が成長してくれるならいい」と思っている。
「周りのみんなに助けられて、信頼されて、やっと『1』になれた。今は感謝の気持ちしかないです」
2度目の春夏連覇。その大きな挑戦は、後輩たちに託した。(半田尚子)