ボルシア・デュッセルドルフのホームの試合が行われるアリーナを案内するプレウス氏(左)。試合のない日は会員に開放されている
来秋の開幕を目指す卓球の「Tリーグ」の参入申し込みが、15日から始まった。人気上昇中で、生涯スポーツとしても注目を集める卓球で地域振興を狙う新リーグ。お手本のドイツをはじめ、世界の動向はどうか。
■ドイツは「地域密着のお手本」
ドイツ・デュッセルドルフの中心部から路面電車で約20分。ドイツリーグ1部を4連覇中で、優勝29度を誇る名門「ボルシア・デュッセルドルフ」(1961年創立)の拠点がある。当時中学生だった水谷隼らが武者修行したクラブとしても有名だ。
リーグの試合も行われる1100人収容のアリーナは、会員なら誰でも使える。バーカウンターもあるクラブハウスや、卓球スクールの子どもたちも宿泊できる30室規模のホテルも備える。Tリーグの専務理事で、現役時代にデュッセルドルフの選手としても活躍した松下浩二氏は「地域密着のお手本だ」と評する。
年間予算は1部リーグの10クラブ中でトップクラスの200万ユーロ(約2億6千万円)だが、プロチームの運営費は半分程度。残りは子ども、中高年、障害者など20以上のアマチュアチームを運営し、1千人以上が参加する子ども大会も主催する。「モットーは『全ての人に卓球を』。家族のような存在でありたい」と、クラブの元選手で現在は運営責任者のアンドレアス・プレウス氏は語る。
収入の2割は自治体や慈善団体から。基金を設け、社会活動もする。昨年から後部に卓球台を引っ張れる自動車を作り、年間約200日、障害者施設や病院を回った。5月から6月にかけてデュッセルドルフで開催された世界選手権では、旧市街に250台の卓球台を鎖のように並べ、600人が一斉に卓球をした。
2007年に入団した元世界ランク1位のティモ・ボルは、社会活動も積極的だ。「リオデジャネイロ五輪の開会式で、ボルはドイツ選手団の旗手を務めた。彼はクラブの象徴で、街の宣伝もできる」とプレウス氏は語る。
■中国にロシアに…選手の奪い合いも
一方プレウス氏は「観客が減ってきている」と危機感を強める。要因の一つは選手の奪い合いだ。ドイツリーグに有力選手を送り込んでいた王国・中国は、00年に自国にスーパーリーグを設立。ドイツ勢も男子エースのドミトリー・オフチャロフは、水谷らも所属する欧州王者のオレンブルク(ロシア)に「流出」した。
卓球用具メーカー「タマス」の欧州法人の社長で、欧州事情に詳しい今村大成氏によると、オレンブルクはロシアの天然ガス独占企業「ガスプロム」の豊富な資金力がある。「ロシアリーグでライバルのUMMCも、潤沢な資金で中国選手らを引き抜いている」
ロシアや中国は有力選手の契約金が数千万円と高額で、リーグの期間も3カ月ほど。一方、ドイツ1部の期間は約10カ月あり、他リーグとの掛け持ちも規定で厳しくしている。リーグ統括団体のニコ・シュテーレ常務は「オフシーズンが長すぎると、スポンサーや観客が離れる。選手が一つのクラブでプレーし、クラブを代表することも大事だ」と説明する。
世界はリーグの設立ラッシュだ。6月にはマレーシアでT2アジア太平洋リーグが開幕し、水谷や張本智和らも参戦。ハリウッド映画の撮影スタジオが試合会場で、卓球では珍しいボールボーイを置いてスピード感を保つなど、テレビ映りを意識した。中国出身のフランク・ジー氏は「母国でも卓球に興味を持つ若者が減っている。若い世代を巻き込む方法を意識した」と語る。7月にはインドにも新リーグ誕生。選手の獲得競争は激しさを増す。
■日本のTリーグは
Tリーグは、来秋に頂点の「プレミア」(男女各4チーム)を開幕させ、下部リーグを将来的に設置する予定。チーム名には地域を必ず入れ、企業名を併記することも可能。Jリーグのように、子どもの育成組織を将来的に設けることも条件だ。年2億~3億円の収支に耐えうる事業性も、チーム選考で重視する。
2千人規模のホームアリーナも必要で、将来的には規模の重なるバスケットボールのBリーグとの連携も見据える。水谷隼や張本智和らと契約している男子の木下グループや、IT大手のDeNAなどが興味を示している。
最大のハードルは、選手の確保だ。参入には世界ランク10位相当の実績ある選手が必要。「中国トップ選手を呼べれば、アジアでの放映権収入も見込める」と松下専務理事。世界でリーグが乱立する中、有力選手が参戦したくなるような条件作りが求められる。実業団主体の日本リーグ勢の参入も不透明で、16日に対応を協議する。
ボルシア・デュッセルドルフのように地域に根ざしつつ、高い競技レベルを目指すという難題に挑戦する。(守真弓、前田大輔)