岐阜県瑞浪(みずなみ)市の病院職員の男性(当時26)が3年余り前に自殺したことについて、多治見(たじみ)労働基準監督署(同県多治見市)が労働災害と認定したことが、遺族らへの取材でわかった。今月4日付で通知された。男性はライフル競技の選手で、国民体育大会(国体)の選手強化に向け県教委の紹介で就職したが、遺族は、業務に十分な支援がなく長時間残業でうつ病を発症したと訴えていた。
亡くなったのは長崎市出身の鈴田潤さんで、高校時代から射撃競技で国体に出場するなどしていた。遺族側代理人の松丸正弁護士(大阪弁護士会)によると、鈴田さんは大学卒業後の2010年4月、岐阜県内で病院などを運営するJAグループの県厚生農業協同組合連合会(厚生連)に就職。12年秋の岐阜国体を控え、県教委が就職を仲立ちした。岐阜市の厚生連本所で会計や資料作成などを担当しながら、試合や練習に取り組み、国体では2種目に出場。優勝と7位入賞した。
翌13年4月、鈴田さんは県内の病院に異動。駐車券処理やOA機器修理などの日常業務のほか、月に3回ほど夜間の当直勤務にも入り、急患や来院者への対応もするようになった。
同年12月26日、鈴田さんは「仕事の全てにとんでもなく重圧を感じて耐えられなくなっている」「体がいくつあっても足りない」などと書いた文章をパソコンに残して一人暮らしの自宅から失踪。翌年1月8日、車の中で死亡しているのが見つかった。
遺族は業務用パソコンのログイン・ログアウト時刻や当直勤務の記録をもとに、死亡前3カ月の残業が月107~148時間だったと主張して労災認定を請求。日によっては当直明けでそのまま翌日深夜まで働き、連続39時間の拘束に及ぶ勤務もあったとした。
厚生連は14年4月にまとめた調査報告書で、上司が鈴田さんの帰宅が遅いことには気付いたが、残業申請の提出を促すにとどめており、「労務管理が機能していたとはいえず、労働時間管理に不適切な部分があった」と認めた。一方、鈴田さんは岐阜国体後にライフルの所持許可の失効があり、エアライフル競技をするなどしていたといい、選手としての将来への不安など「ストレスの蓄積も(自殺の)要因として考えられる」として、原因は解明できなかったと結論づけていた。
遺族側の松丸弁護士は「厚生連は鈴田さんの心身の健康に十分配慮していたとはいえない。企業などで働きつつ競技を続ける選手らの労働者としての権利をどう守るかという課題も浮き彫りになった」と話す。
厚生連は「現状では労災認定について把握しておらず、何もお話しできない」とした上で、「(自殺の原因が)必ずしも仕事がすべてであったとは認識していない」と説明している。(阪本輝昭、荻原千明)