トンネル再掘削までの工程
福岡市のJR博多駅前の陥没事故から、8日で1年。原因となった市営地下鉄七隈(ななくま)線のトンネル掘削は中断し、現場は土砂や水で埋まったまま。再掘削の方法は決まったが、当初2020年度としていた博多駅への延伸区間の開業は、遅れる見通しだ。
7日に開かれた市の技術専門委員会は、事故前と基本的に同じ工法でトンネルの掘削を再開することを決めた。事故の再発を防ぐため、トンネル上部に高圧のセメント剤を噴射するなどし、人工的に硬い岩盤を築いた上で取りかかる。
事故はトンネル掘削中に軟弱な砂層に突き当たり、地下水とともに大量の土砂が流入して起きた。陥没した穴は、セメントなどに土を混ぜた流動化処理土で埋められた。処理土は一定の強度があるとされるが、周囲には弱い砂層が残る。
今後、地盤改良で再陥没を防ぎつつ、トンネル内の土砂や水を撤去。その上で再掘削を始める。
ただ、再掘削までには課題も残る。地中には陥没に巻き込まれた信号機やコンクリートがそのまま埋め立てられている上、直径約2・5メートルの雨水管が通る。
専門委では、こうした障害物によって地盤改良のための薬剤が行き渡らない可能性も指摘された。専門委のメンバーでもある地盤工学の専門家は「実際に地盤改良ができたかを確認し、作業を進めないといけない。(再掘削には)かなりの時間を要する」と指摘する。市はトンネル再掘削の開始時期について「議会報告などの手続きを経て決める」とし、工事中断がさらに長期化するとの考えも示している。七隈線の天神南―博多間(1・4キロ)は当初の20年度中の開業予定の見直しを迫られそうだ。
一方、事故の影響を受けた周辺の店舗や企業などへの損害賠償は今月6日現在、請求のあった437件の98%にあたる429件(約4億9千万円)で支払いに合意した。残る8件は、市などが提示した金額面で折り合わないなどしているという。賠償費用は、工事を請け負った大成建設側が負担する。
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〈JR博多駅前の陥没事故〉 2016年11月8日早朝、福岡市博多区の市道が、幅約27メートル、長さ約30メートル、深さ約15メートルにわたって陥没。周辺のライフラインが損壊し、新幹線博多駅の構内など最大で800戸が停電した。市道の地下では市営地下鉄七隈線の延伸工事中だった。穴は埋め戻され、市道は1週間後に復旧した。