映画音楽の上映権使用料の値上げを求める会見で意見を述べるAPMA会長の都倉俊一氏(右から4人目)ら=8日、東京都新宿区、伊藤恵里奈撮影
日本音楽著作権協会(JASRAC)が映画音楽の上映権使用料の値上げをめざして動き出した。「1本18万円」と定額だった外国映画について興行収入の1~2%を映画館側に要求。アジア・太平洋地域の著作権団体の連盟も8日、「適正な対価還元」を求める宣言を発表し、JASRACを後押しした。一方、死活問題と受け止める映画業界は猛反発している。
著作権法は、映画を上映する際、映画の中に録音された音楽の再生には作曲家・作詞家の許可が必要と定めている。この規定を根拠に、JASRACは映画業界から「上映権使用料」を徴収してきた。
邦画は、上映スクリーン数に応じて使用料を計算している。外国映画は映画館が加盟する「全国興行生活衛生同業組合連合会」(全興連)との契約で、1本につき18万円で映画配給会社が支払っている。邦画と異なり、どれほどヒットしても定額だ。その結果、JASRACが徴収する上映権使用料は邦画と合わせても年間約2億円にとどまる。欧州の多くの国は使用料を興収の1~6%と規定しており、フランスや英国、ドイツ、イタリアの徴収額は13億~23億円に上る。
JASRACは、2011年から全興連と本格交渉に入り、来年4月から興収に応じて算定する方式への変更を要求。その料率は、欧州並みに国内興収の1~2%を目指している。実現すれば、14年公開の「アナと雪の女王」で2億5千万~5億円となるなど、大幅な増収になる。
JASRACによれば、中国、タイ、インドなどでは著作権団体が音楽の上映権使用料を徴収できていない。JASRACなどアジア地域の著作権団体でつくるアジア・太平洋地域音楽創作者連盟(APMA)は6日に東京で総会を開き、「東京宣言」を採択。「映画が巨大な娯楽産業であるにもかかわらず、アジア・太平洋の多くの国で映画音楽の創作者に適正な対価還元がなされていない」と指摘し、「映画の成功を音楽創作者も共に喜ぶにふさわしい上映権使用料の還元がなされるべきである」とした。
作曲家でAPMA会長の都倉俊一氏は宣言を発表した8日、「仕事をしただけの対価があるという不文律ができてなく、創作者の意欲をそぐ」と訴えた。「レヴェナント 蘇(よみが)えりし者」など海外映画に楽曲を提供してきた坂本龍一氏は「日本が主導権を発揮し、作り手の経済的基盤を守ってほしい」との談話を寄せた。(赤田康和)
映画業界は、「無謀とも言える要求だ」(関係者)などと反発する。全興連は配給業者と協議し、7日付でJASRACに文書を送付。興収に応じた方式への変更は「実務に多大な混乱を及ぼす。到底受け入れられない」とし、スクリーン数に応じて3段階とする固定使用料で、値上げを小幅に抑える対案を提示した。
JASRACは将来的に「上映の主体者」である映画館から徴収する考えも示している。映画館側からは「人件費や家賃が高い日本の事情を考慮していない。倒産するところも出る」(シネコン関係者)との声が漏れる。「入場料の値上げも避けられない」との見方もある。業界には「一定の譲歩はやむを得ない」との声はあるが、膠着(こうちゃく)状態が続くのは避けられない見通しだ。(編集委員・石飛徳樹、伊藤恵里奈)