有馬人形筆から顔を出す豆人形
筆を持つと、ぴょこんと顔を出す小さな人形――。神戸・有馬温泉で室町時代から続く伝統的工芸品「有馬人形筆」を唯一扱っていた「灰吹屋(はいふきや)西田筆店」が1年前、火災で全焼した。伝統をつないできた7代目の夫婦は失意の中、温泉街の人々に支えられ、営業再開へ動き出した。
昨年11月11日未明、火災報知機のけたたましい音で、店主の西田健一郎さん(71)と妻の明子さん(72)は目覚めた。隣家からの延焼で、階下の工房はすでに炎に包まれていた。2階の寝室にも煙が立ちこめ、孫を抱いて裸足で路地へ逃げた。
かつて温泉街には人形筆の製造元が複数あったと伝わるが、残っていたのは西田筆店だけ。明子さんが筆づくりを担い、健一郎さんが店頭に立つ。からくりや色鮮やかな軸が特徴で、観光客に人気だった。
仕事道具を持ち出す余裕はなく、生活の場と職を一度に失った。「がんばろうと励まされるのもつらかった。何も考えられなかった」と健一郎さん。ただ、発生翌日、焼け跡から店の看板と母で6代目の光子さんの生前の写真が見つかり、明子さんは「『もう一度店をしなさい』と言われているように感じた」。しかし、借金をして店を再開する気持ちには、なかなかなれなかったという。
そんな2人に店の近くで旅館「…