トンネルを抜けると陽光が注ぎ、風の音が聞こえる=安芸市伊尾木
高知県安芸市の伊尾木洞(いおきどう)に全国から訪れる観光客が急増している。秋の行楽シーズンに入り、その勢いはやみそうにない。市観光協会が洞窟で実施している観光ガイドの利用客は10月末現在で、約6400人に達した。2015年の229人に比べて約28倍だ。
地元では「あなごう」と親しまれてきた伊尾木洞だが、かつて訪れる人はほとんどなかった。2年前の観光博覧会「高知家・まるごと東部博」を機にPRを始めたが、秘境や非日常の空間の魅力が都会の人々の心をつかんだようだ。
伊尾木洞は約300万年前に土佐湾の海底に堆積(たいせき)した地層が地震のたびに隆起し、波浪により削られて出来た海食洞。高さ約5メートル、幅約3メートル、長さが約40メートルとコンパクトな洞窟だ。国道55号から徒歩でわずか1分ほどのところにある。
小川が流れる小さなトンネルを抜けると、木漏れ日が差し込み、切り立った岩の壁とうっそうとした森が広がる。樹木を揺らす風の音が聞こえる。
国の天然記念物に指定されているシダの群落があり、コウモリも飛ぶ。洞窟の入り口から差し込む夕日も人気だそうだ。
市観光協会によると、大手旅行会社のツアー客を乗せた東京や名古屋、福岡からの観光バスが多い。ヘルメットをかぶってガイドの説明を聞きながら、カメラやスマートフォンで撮影する人たちもいる。土日には、近くの駐車場が県外ナンバーの車でいっぱいになることもある。
阪急交通社は昨年12月から、伊尾木洞を含む周遊ツアーをスタート。今年の夏はキャンセル待ちが出るほどの人気に。シニア層が大半で、東京や関西、中部地方の人が多い。同社の広報担当者は「神秘的で、写真映えのするこれまでにない、新しい絶景の魅力が人気のようです」と話す。
伊尾木洞は、個人でも自由に入れるため、実際に訪れている客はさらに多いようだ。現在、ボランティアの観光ガイド15人が案内や説明をしているが、ガイドの人数も増やす方針だ。
市観光協会の近藤奨悟さんは「伊尾木洞を訪れた観光客の流れが、モネの庭や室戸市のジオパークなど県東部にも向かうようになりました。今後、四季を通じて楽しんでもらえるような観光スポットにしたいです」と張り切っている。問い合わせは協会(0887・35・1122)へ。(笠原雅俊)