「転んだ時にヘルメットは頭を守ってくれる」。そう話すのはスイス・サンモリッツのスキー場でスノーボードを楽しんでいたフィッシャーさんとツビックさん(右)=2017年12月、笠井正基撮影
もうすぐ本格的なウィンタースポーツシーズン。全国スキー安全対策協議会によると、スキーやスノーボード(スノボ)の事故による死者・行方不明者は今年2月だけで全国47のスキー場(管理区域外含む)で15人を数えた。関係者は転倒や障害物にぶつかった時の衝撃を和らげるため、ヘルメット着用を訴えている。
野外活動の安全対策に詳しい中央大の布目靖則教授が全国のスキー場(原則、管理区域のみ)におけるスキー・スノボの事故死者を2015~16年までの11シーズンでまとめたところ、少なくとも計99人(スキー51人、スノボ48人)に上った。死亡時の状況は立ち木や岩などへの衝突のほか、人間同士の衝突や転倒が多かったという。
斎藤記念病院(新潟県南魚沼市)の脳神経外科医の福田修院長は、中越地方のスキーとスノボの頭部外傷者の事故例を集めてきた。スキーより自己転倒の多いスノボの方が頭部をけがする頻度が高く、スノボの初級者は谷側の板が雪面に引っかかる「逆エッジ」で転び、上中級者はジャンプ時に転倒して負傷する例が多いという。06~07年からの10シーズンで、スノボで頭部をけがした1086例のうち、脳振盪(しんとう)の可能性のある外傷性健忘が508例あった。
頭部を打つとどんな症状が見られるのか。スノボで3大会続けて五輪代表となった藤森由香(アルビレックス新潟)は今年9月、ニュージーランドであったスロープスタイル・ワールドカップ(W杯)の練習中に転倒して頭を強打。今年3度目の脳振盪と診断され、「1時間は記憶を失った」という。昨年12月のW杯パラレル回転で転倒した14年ソチ五輪銀メダリストの竹内智香(広島ガス)も、事故当時の記憶は戻らなかったという。
けがを防ぐヘルメットの着用率は氷河やアイスバーンの多い欧米で高い。カナダ・スキー協議会によると、スキー・スノボ時に87%の人がヘルメットを着用していた調査結果がある。着用を義務づけるスキー場は277カ所のうち2カ所だが、ほとんどのスキー学校では18歳以下に着用を義務づける。
オーストリアでも12歳以下はほとんどのスキー場で着用が義務づけられているが、同国のスキー連盟は法制化には反対。同国スキー連盟は「着用率が高いのは流行仕掛け人のスノーボーダーやスキーヤーがいて、ヘルメットがよりスタイリッシュで、魅力的になったから」と分析している。
一方、軟らかい雪が多い国内では普及が進んでいない。全国スキー安全対策協議会の昨季の「スキー場傷害報告書」によると、負傷時の着用率はスキーが36・1%、スノボが16・4%にとどまる。ヘルメット輸入販売会社の担当者は「日本ではファッションが優先され、ヘルメットはださい印象がある」と分析。スノボでの着用率が低いのは、専門誌がニット帽の写真を比較的多く使っていることも影響しているのでは、と指摘する。
福田院長は「ヘルメットをかぶれば頭部外傷の危険性を下げられる。マナーを守って滑って欲しい」と話している。(笠井正基)