野帳に古墳や埴輪のスケッチを残している河内一浩さん=大阪府和泉市、槌谷綾二撮影
「まだまだ勝手に関西遺産」
30年近く前。私が大学の考古学研究室に入ったとき、先輩たちがある手帳を持っていた。緑のクロス張りの武骨な表紙。発掘現場で使われる「野帳(やちょう)」というものだと教わった。使ってみると、表紙が硬い厚紙で、立ったままでもメモを取りやすく、私も持ち歩くようになった。
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就職してからは使う機会がなかったが、最近、緑表紙の野帳を文房具店や雑貨店で見かけるようになった。インターネットで検索したら驚いた。表紙をテープやシールで飾ったり、ゴムバンドをつけたり、カスタマイズ(改造)して楽しむ愛好家が増えていた。愛好家は「ヤチョラー」と呼ばれ、人気商品になっているらしい。野帳を製造販売する文房具メーカーのコクヨ(本社・大阪市)を訪ねた。
商品開発のグループリーダー、村上智子(さとこ)さんが取材に応じてくれた。村上さんによれば、野帳の正式な商品名は「測量野帳」(本体価格200円)。土木工事や発掘調査の現場で測量する際に使うノートとして、1959年に誕生した。測量機器の計測値の記録用と、ページが方眼紙になったスケッチ用のタイプがある。大きさは縦16・5センチ、横9・5センチ。新書本より一回り小さいサイズで、作業着の胸ポケットにも収まる。発売開始から基本的な仕様をほとんど変えないまま、現場向けの商品として大阪府内の工場で生産されてきた。
そんな野帳がなぜ、一般の人にも注目されるようになったのか。村上さんに聞くと、「私たちにも不思議なんです」。ただ、思い当たるのは、2009年にアウトドア雑誌の付録や、そのタイアップ商品として限定色の野帳を出し、人気を呼んだことがあったそうだ。そのころから長年の愛用者たちが、インターネット上で思い思いの「野帳カスタマイズ法」を披露し、情報交換するようになった。コクヨも12年にホームページに特設ページをつくって「ヤチョラー」の紹介を始め、じわじわと人気が広がっていったとみる。
野帳に大学時代から36年間、…