飯村にアドバイスを送る父の栄彦さん(右)=東京・駒沢体育館
東京・駒沢体育館で10日まで開かれたフェンシングの全日本選手権。女子フルーレで史上初の高校生優勝となる18歳の東晟良(せら、和歌山北高)が最年少で頂点に立ち、「若い力」を印象づけたが、男子だって負けていない。強豪ぞろいのフルーレで大学生や社会人を倒して予選突破し、32強入りした飯村一輝(京都・龍谷大平安中)はまだ13歳。大器の片鱗(へんりん)ぶりは、同じ京都から世界に羽ばたいた、あのメダリストに重なる。
「相手が大人や高校生でも、倒せる自信がついてきた」。決勝トーナメント1回戦で高校3年生に逆転勝ちした飯村は、はつらつと手応えを口にした。
165センチできゃしゃな体格。ピストの上の強気の剣さばきと、マスクを外した時のあどけない表情には正直まだギャップがある。
日本代表を本気にさせた
2回戦でこの大会準優勝、日本代表の主将も務める松山恭助(早大)に敗れたが、その松山にも「強いのはわかっていたので、本気だった」と言わしめた。協会関係者も、「13歳でここまで勝ち上がるとは」と飯村の躍進に驚いた。
飯村の父、栄彦(ひでひこ)さん(41)は同志社大フェンシング部顧問で、実は太田雄貴さん(日本フェンシング協会会長)を中学から大学まで指導した名コーチだ。
長男の飯村にフェンシングを仕込んだ過程も、太田さんが競技を始めるきっかけになった「ニンジン作戦」をかなり意識したものだった。
太田さんが銀メダルを獲得した北京五輪をテレビで応援していたのは、飯村が4歳のとき。「それまでは見るのが好きだった」という息子に父は言った。
ジュースに釣られて剣握る
「ジュース買ってあげるから、フェンシングやってみないか」
父は、スーパーファミコンを買う代わりにフェンシングを始めた太田さんのことが頭にあった。「雄貴と同じように、『買うか』っていってみた」
それからというもの、ジュースに釣られて剣を握った飯村は、小学生のときから高校生と一緒に練習を開始。龍谷大平安中に進んでからは週末を中心に大学生や社会人と剣を交え、腕を磨いた。
昨年、中学1年で全日本選手権に初出場すると、今年10月には17歳以下の国際大会で銀メダルをつかんだ。栄彦さんは「切り返しの良さや攻撃をやめずに次を突くのが私の求めるスタイル。だんだん雄貴に似てきた」と評価する。
尊敬する太田さんから「お年玉」とプレゼントされたユニフォームを着て臨んだ今回の全日本選手権では、一方で、破れた松山ら日本トップクラスとのレベルの差も痛感した。「オリンピックでメダルをとるのが僕の目標。太田さんは憧れの存在だけど、いつか超えたい」。
直系の太田2世、13歳の飯村の成長に注目したい。(照屋健)