IT大手の楽天は14日、自前の通信回線を持つ携帯電話キャリア事業に参入すると表明した。総務省が来年、携帯電話向けに割り当てる電波の周波数を取得し、2019年中のサービス開始を目指す。実現すれば、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクグループの3社の寡占状態だった業界で、「第4の携帯電話キャリア事業者」が誕生する。
14日午前の取締役会で参入を決めた。来年初めまでに新会社をつくり、25年までに銀行などから最大6千億円を借り入れて投資し、全国に自前の基地局を設置する方針。まず人口が多く効率のよい都市部で投資するとみられる。1500万件の契約を目指すという。
総務省は来年3月までに、防衛省や放送事業者などが使う電波の周波数を、利用が急増している「4G」方式の携帯電話向けに割り当てる。募集は1月にも始める。これまでの同様の募集では大手3社などに割り当てられた。審査では新規参入者が優先され、楽天が十分な体制を用意すれば取得できる公算が大きい。楽天はこの周波数を取得し、自前の回線で携帯電話事業を始める考えだ。
楽天は現在、ドコモの回線を借りて格安SIM事業の「楽天モバイル」を手がける。契約数は11月に買収した「フリーテル」の分を合わせて約140万。ただ携帯電話全体の契約数は約1億6千万で、大手3社が約9割を占める寡占状態だ。楽天の契約数は全体の1%未満にとどまる。
格安SIM事業は利幅が薄く、大手も同事業で攻勢をかけており、価格競争が激しい。現状で契約数を伸ばすのは限界があり、自前で回線を持つ形への切り替えを決めたとみられる。楽天は通販や旅行などのサービスで顧客基盤があり、契約数を伸ばせるとみているようだ。
ただ、自前の回線を整備する巨額の設備投資が課題だ。各地に基地局をつくるだけでなく、年間数千億円とされる整備費もかかる。ドコモやKDDIは既存の通信事業者が母体で、ソフトバンクもボーダフォン日本法人を1・7兆円超で買収し一気に設備と顧客を手に入れた。楽天がどのような参入計画を今後打ち出すかが注目される。(上地兼太郎、徳島慎也)
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〈楽天〉 日本興業銀行(現・みずほ銀行)出身の三木谷浩史会長兼社長が1997年に創業し、ネット通販サイト「楽天市場」で事業を拡大。楽天銀行や楽天カードといった金融事業も展開する。プロ野球やJリーグのチームも傘下に持つ。2016年12月期の売上高は7819億円、営業利益は779億円(国際会計基準)。14年にNTTドコモの回線を借りるMVNO(仮想移動体通信事業者)として、「楽天モバイル」で格安スマートフォン事業に参入。今年11月に「フリーテル」を買収し、格安SIM業界で3位。