京都大卒の女性プロ雀士・松嶋桃さん=高橋雄大撮影
京都大学法学部、同志社大学法科大学院を卒業したあと、マージャン(麻雀)プロとして生きる道を選んだ女性がいます。日本プロ麻雀協会所属の松嶋桃さん(33)。なぜ有名大学を目指し、その後にマージャンの世界へ進むことを決めたのでしょうか。「京大卒雀士『戦わない』受験勉強法」の著者でもある松嶋さんに、受験やマージャンについて聞きました。
「受験する君へ」記事一覧はこちら
【写真特集】学園祭やミスコン、勉強の息抜きに
◇
小学校に入る前に祖父が「小学生はマージャンができないとね」とマージャン牌を持ってきて、教えてもらったのが始まりです。小学生はマージャンができないといけないのかと思って入学したら、だれもできなかった。でも家族でずっと続けていました。
マージャンは運と実力の両方の要素があるので、覚えたてでも勝てるときがあるんですよ。たまに勝てるとうれしかったのを覚えています。
名古屋の南山高校時代は、のんびりした高校生でしたね。部活は「割烹(かっぽう)部」という、料理部のようなところに遊びにいっていました。やりたいことってなかったんです、私。あせって決めることもできなくて、「どうしよう」ってなって。
D判定 でも「最後に伸びる」信じて
ただその中で、将来いつか夢を持ったときに何でもできるように、いい大学に行こうと思ったんです。京都大学に決めたのですが、私はずっとD判定でした。EとDしか取ったことがなくて。
不安ですよ。「最後に伸びる」という先生の言葉を真に受けて、当日いい点を取れればいいやと思って勉強していました。開き直る。「模試は模試だから関係ない」と思っていました。本番じゃなくてよかったと。不安になる暇があったら、1秒でも多く勉強したほうがいいですよね。
受験は暗記だと思っています。全科目パターンを暗記して、それを試験で応用できるかどうかという戦い。暗記のためには、情報を一元化して持ち歩くのが大事です。たとえば社会でノート、教科書、資料集、地図帳、年表があるとなると全部覚えるのがしんどそうですよね。だから、ベースとなる教科書を決めて、そこにすべての情報を書き込みました。
それを各科目つくって持ち歩く。ひまさえあれば読む。そうすると勉強へのハードルが上がらないんですね。電車の中でもテレビのCMの間でもいいんですよ。
初めて将来のことを考えた
大学時代はめちゃくちゃ遊びました。主にマージャンですね。新歓の飲み会に行くと誘ってもらい、入学式の前にすでに2回くらいマージャンをしていました。その後もマージャン店で遊んでいたらオーナーに誘われ、働き始めました。
大学にはほとんどいなかったし、世間から、はぐれていました。3年くらいマージャンをしていたら、気づいたら周りは就活か大学院の受験勉強をしている状態だったんですよ。で、「どうしよう」。でも決められない。
そこで、万が一弁護士になりたくなったときのためにロースクール(法科大学院)に行こうと思ったんですね。ところが、進学すると、これはダメだと思いました。すむ世界が違うと。
みんなすごく勉強するし、熱意も話していることも全然違う。成績はそこまで悪くなかったのですが、やればやるほど「私のいるところは、ここじゃないかも」と感じました。初めて将来のことを真剣に考えました。遅い。
夢がない人こそ受験を頑張って
マージャンだけは小さいころも、大学生になってからも、ロースクールに入ってからも続けてきたことでした。これが仕事になったら面白いなと思いました。プロ試験の受験は大学在学中からも勧められていて、興味はあったのです。ロースクールを卒業した際に「今ならできる」と考えて受けました。
昔から「夢って職業だけじゃない」と思っていました。私の夢は、死ぬまで笑って楽しく過ごすことだったんです。それってイコール職業ではないじゃないですか。夢について考えたとき、こういう道もあるのではと決めたのがマージャンプロでした。
大学には行ってよかったです。マージャンプロになってから、「京都大学卒」ということで取り上げてもらうことがすごく多くて。おかげさまで1年目からいろんなメディアに出たり仕事をいただいたりしました。無駄じゃなかった。
ロースクールの時代はしんどかったし、いやだったんですが、その時期がなかったら私はいまマージャンプロになっていません。だから、大学院も無駄ではありませんでした。
夢がある人、最短ルートがある人はそちらに進めばいい。受験は、やりたいことが分からない人こそやるべきだと思います。そういう人こそ、頑張っていい大学を目指すべきです。最終目標は夢をかなえることで、受験はあくまでも手段です。
受験は「戦わないで」
受験をあまり大げさにとらえないで欲しいと思います。ただでさえ大変なことをしているんだから、人と戦わなくていいし、自分とも戦わなくていい。
受験は最後の試験で合格水準より1点でも上にいればいいというルールです。だから、人と争うのではなく、あくまでも自分と向き合ってそのラインを超えるように頑張ろうと思っていました。
あとは自分を大事にしてあげる。楽しむのは全然悪じゃないです。たとえば予備校でイケメンの人を見つけるとか、塾の食堂のおいしいメニューを見つけるとか。小さい楽しみをみつけてモチベーションを上げる。
必ずしも机に座って勉強しなくてもいい。寝転がって勉強しても別にいい。型にはめずに楽しく勉強してほしいですね。
マージャンプロの生活は?
将棋のプロは対局料が出ますが、マージャンの場合は会場費やエントリー費を払って大会に参加します。勝ったら賞金をもらえますが、たいがいの人はもらえません。だからマージャンプロが対局だけで生活するのはまだ不可能なのです。
では何をするかというと、兼業プロは会社に行くなど収入をほかで得て土日に対局します。私は専業プロですけど、ゲストとしてマージャン店に呼んでいただいています。お客さんに来てもらうことで売り上げが上がり、その分、日給がもらえます。メディアの出演料もあります。いまは対局番組が多くなっているので、うれしいですね。あとは雑誌や新聞の原稿料、マージャン教室の先生もあります。
マージャンは受験と共通点がありますね。道中は何をしてもいいけど、最終目的がはっきりしています。勝敗も必ずつく。若い人たちにもマージャンをお勧めしますよ。論理的な思考ができるようになります。あと、人と仲良くなれます。一番はそこですね。面白いので、やってみてください。
◇
まつしま・もも 1984年生まれ、名古屋市出身。私立南山高校から京都大学法学部へ。卒業後、同志社大学法科大学院へ進学。現在は日本プロ麻雀協会に所属。著書に「京大卒雀士『戦わない』受験勉強法」。(聞き手・柴田真宏)