愛知県警春日井署がコンビニ向けに配布している、はがきサイズの「被害防止カード」。表面(右)は詐欺はがきの例、裏面(左)は被害防止のための声がけを呼びかける内容だ
コンビニエンスストアで十数桁の番号を店員に伝えたり、端末に入力したりしてショッピングの支払いができる「収納代行」。これを悪用した新手の詐欺被害が各地で増えている。はがきやメールで「訴訟の取り下げ費用」などと称して現金を請求し、実際は電子マネーなどを買わせているケースが目立つといい、業界団体や警察が注意を呼びかけている。
収納代行は、本人確認も不要で、24時間いつでも利用できる。ネットショッピングなどで商品注文時に支払い方法を「コンビニ払い」と選び、メールなどで届いた番号をコンビニの端末で入力するか、店員に伝えて支払いを進める。
一方、詐欺の手口は、①犯人が商品を注文し②支払い番号を被害者に伝え③代金をコンビニのレジで支払わせ④収納代行業者を通じて⑤商品の形でだまし取る――という事例が多い。愛知県警によると、県内での被害は9月ごろから増え始め、今年は10月末までに48件。被害額は計約7千万円にのぼる。なかには何度も被害に遭う人もおり、他県でも同様の被害が確認されているという。
愛知県春日井市の主婦(58)は先月、「訴訟が起こされている」と書かれたはがきを自宅で受け取った。はがきの番号に電話をかけると、弁護士を名乗る男らから「コンビニの『収納代行』で取り下げ費用を支払えます」と持ちかけられ、13桁の番号を伝えられた。
レジでは、不審がられることもなく簡単に10万円を支払った。翌日にも同様に指示され、計50万円を払ったが、不審に思い近くの交番に届けて詐欺だとわかった。受け取った領収書には、「支払先」にネット通販大手アマゾンのサイト名、「お客様名」には知らない人物の名前があった。
女性は「どういう仕組みなのか全く分からなかった。まさかこんな手口があるなんて」と話す。
領収書の支払先は偽名とみられ、犯人をたどるのは難しい。また、店員や周囲の人も、被害者は自分の買い物の支払いをしているように見えるため、詐欺被害に気づきにくい。
愛知県半田市にある「セブン―イレブン」のオーナー男性(61)は「客が固有の番号を持ってくるため、なんとなく安心してしまう」と語る。収納代行では購入内容を確認することも「あまりない」という。
どうすれば被害を防げるのか。業界団体「日本代理収納サービス協会」によると、悪用される事例は昨年以降、全国的に増えてきているという。担当者は「支払ってしまうと取り戻せない。請求されても支払いをしない『水際対策』が有効です」と話す。
県警は、コンビニ店員向けに詐欺の手口を伝えるとともに、ビラを配布。収納代行で10万円以上の支払いをする客には、積極的に声かけするようにも依頼している。日本フランチャイズチェーン協会によると、各コンビニに対策を通知した結果、収納代行で高額の支払いをしようとする客に声をかけ、被害を防いだ事例も報告され始めているという。(鈴木春香、田中恭太)