検視官(左)らは、遺体の状態をカメラに収めながら検視を進めた=名古屋市
遺体や発見現場の状況などから事件性の有無を見極める「検視官」。今夏、記者が愛知県警の検視に立ち会って取材した。
「かわいがり暴行死」から10年、検視体制は変わったか
真夏日のこの日、名古屋市内にあるアパートの一室で、50代の男性が人知れず息絶えているのが見つかった。現場の周辺を調べる「環境捜査」が終わると、遺体は最寄りの警察署へと移された。発見から数時間後、署に白いワゴン車が到着。灰色の袋に包まれ、担架に乗せられた遺体は、2人の署員によって運び出される。
「亡くなって3週間近く経っているとみられる。ただ、部屋にエアコンが効いとったので、腐敗の程度はちょっと遅れとるけど」
現場から署に到着した、県警捜査1課警部の男性検視官が、そう説明してくれた。
部屋に残された診察券や貴重品などから、男性に心臓病やがんの既往歴があることが判明。「孤独死」の可能性が高いことが分かっていた。それでも万が一、犯罪に巻き込まれているかもしれない――。そうした視点で、遺体の全身をくまなく調べるのが検視官の仕事だ。
検視が行われるのは、署に隣接する「霊安室」。そこは6畳ほどのスペースに遺体を載せる台が置かれ、天井近くには小さな祭壇が設けられている。この日の最高気温は32度で、霊安室は蒸し風呂のように熱気がこもっていた。検視官やサポートする警察官の額からは、すぐに大量の汗が滴り落ちた。
5、6人の警察官が遺体を囲み、台の上で袋のチャックを開ける。たちまち、周囲に臭いが立ちこめた。上はトレーナー、下はトランクス姿。頭部皮膚は変色しているように見えた。
「頭髪は容易に抜去(ばっきょ…